終わりの始まりの日とデュー・プロセス・オブ・ロー
近年の著作権法の改正頻々たり
1.著作権法が保護するもの
著作権法は、著作者のクリエイティビリティ(独創性)によって生み出され、表現された文芸、学術、美術、音楽、コンピュータプログラム等の作品(著作物)を保護するための法律である。
2.その特徴と保護の必要性
著作権は、著作物が世に出た瞬間に成立する。したがって、特許権や意匠権のように登録の手続きを要しない。
そのため、著作権は侵害・盗取されるやすい性質を有するが、これを保護しないと、国民が著作物を作る意欲を失い、ひいては一国の文化の発展が阻害される。そのため、著作権法は、民事的に保護するだけでなく、刑事面でも保護される(これに違反した場合には、犯罪として処罰される可能性がある)。
3 近年の著作権法の改正
著作権法は、平成30年以後、実に4回も改正されている。
(1)平成30年の通常の改正
平成30年には、通常の改正として、以下の4点が改正された。
第1に、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定の整備が行われた。
具体的には、著作権者の権利を不当に害さない範囲であれば、柔軟に著作物を利用できることにした。「柔軟な権利制限」にカジを切ったのである。
その結果、例えばAIの学習のためにデータを利用するとか、論文の盗用がないかチェックするために論文をデータベース化して、盗用箇所を比較で表示する等が自由にできることになったのである。
第2に、教育の情報化に対応した権利制限規定等が整備された。
これまでも、教育機関の授業内で利用するのであれば、著作物の無許諾コピーはできたが、その上に、現実の授業の他、リモート授業においても、著作物のデータ送信ができるようになり、コロナ禍におけるリモート事業がスムーズに行えることになった。
第3に、障害者の情報アクセス機会を拡大した。これまで書籍の音訳は、視覚障害者の利用に限って許諾なしで許されていたものを、四肢が不自由でページがめくれないといった、視覚以外の障害がある人にも対象を広げた。
第4に、図書館や美術館が収集・保存している著作物の利用を活性化していくために、美術館等で作品説明用として、館内設置や貸し出しタブレット端末に作品を載せる等が可能になった。
(2)平成30年のTPPに整合するための改正
TPP(環太平洋経済連携協定)とは、環太平洋の国々で人、物、金、情報、サービスの移動の高度の自由化および知的財産(知財)の保護等に関する協定をいう。元は、アメリカの提唱により始まったが、トランプ政権の誕生後の2017年にアメリカが離脱したため、日本が中心となって11か国で協定が発足した。
知的財産権とは、著作物、発明、商標などといった無体財産について、その創出者に対して与えられる、民法上の所有権に類似した独占権である。この協定に合わせるために、著作権法は、著作権の有効期間、罰則、著作物の利用管理する手法、損害賠償の制度整備等につき改正された。TPPに参加を希望する国が最近増えているが、偽ブランドなどの技術等を盗用する国は、そもそも参加資格がないといえる。
(3)令和2年(2020年)改正
令和2年改正は、かなり多岐にわたるが、主なものは、以下のとおりである。
ア 海賊版被害への早急な対応
海賊版コンテンツによる被害は深刻なものがある。これに対処するために、リーチサイト(著作権侵害コンテンツへのリンク集のようなサイト)対策および無断ダウンロードの違法化・刑事罰化を柱とした改正が行われた。
イ 著作物利用権の当然対抗制度
著作物を利用する際には、著作権者との間でライセンス契約を結ぶことが一般的であるも、改正前にあっては、その権利をもって第三者に対抗することはできないという制約があった。すなわち、著作権者が第三者に著作権を譲渡した場合、著作物の利用権者(ライセンシー)は、当該第三者に利用権を主張できないとか、著作権者が破産した場合に、破産管財人によりライセンス契約が解除されるおそれがあった。そのため、改正法は、著作物利用権者は、特段の手続きなく、利用権で対抗できることにした。
ウ 写り込みに関する権利制限規定の拡張
写り込みとは、写真や動画撮影の際に、背景等に他人の著作物(キャラクターや絵画等)が写り込んだ場合や、スマートフォン等でスクリーンショットを撮影した際に違法にアップロードされた画像が含まれていた場合などをいう。
このような著作権の侵害は軽微であることから、改正法では、アメリカで行われている公正な利用(フェアユース)等については、一定の要件の下で、著作権侵害に該当しないことにした。
エ アクセスコントロール技術の保護強化
近年、コンテンツの販売がダウンロード販売へと移行し、ソフトの利用者が、メーカーから配布されたユーザー名やシリアルコード(ユーザー名等)を登録することでソフトウェアの使用が可能になるという仕組みになってきた。その結果、不正なユーザー名等を使用したライセンス認証の回避の問題が生じることになった。そのため、改正法は、不正なユーザー名等の使用も著作権侵害行為にあたることを明記した。
オ 著作権侵害訴訟における証拠収集手続の強化
著作権侵害訴訟において、裁判所は、侵害立証等に必要な書類の提出を命じることができるが、裁判所がより正確に提出の必要性を判断する際に、著作物を見たり、専門性の高いものについては専門委員(大学教授等)のサポートを受けたりすることを可能にした(文化庁「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律(説明資料)」参照)。
(4)令和3年(2021年)改正
令和3年改正は、昨年5月に改正されたばかりであるが、2022年1月から一部施行された。その概要は以下の通りである。
ア 国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信
国立国会図書館が、絶版等資料のデータを公共図書館等だけでなく、直接利用者に対しても送信できるように改正された。
絶版等資料とは、絶版その他これに準ずる理由により入手困難な資料をいうが、この中には、「紙の書籍が絶版で、電子出版等もされていない場合」、「将来的な復刻等の構想があるが、現実化していない場合」、「最初からごく小部数しか発行されていない場合(例:大学紀要、郷土資料等)」が入る。
手続的には、事前登録した利用者(ID・パスワードで管理)が国立国会図書館のウェブサイト上で資料を閲覧できるようになる。しかし、実際の運用においては、著作権者の保護の関係から、一定の条件がつく。事情により図書館に行けない場合には、絶版等資料の閲覧が困難であったので、改正法で、利便性が向上した。
イ 各図書館等による図書館資料のメール送信等
各図書館等(国会図書館を含む)が、現行の複写サービスに加え、権利者の利益を不当に害しないこと、データの流出防止措置を講じることなどの一定の厳格な条件の下において、かつ調査研究目的であれば、著作物をメールなどで送信できるように改正された。
ウ 放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化
放送番組には、多様かつ大量の著作物等が利用されているが、インターネット同時配信等は、視聴者の利便性向上やコンテンツ産業の振興等の観点からより推進していくことが求められていた。従来は、放送とネット配信では著作権処理が異なっていたため、番組制作時には放送用とネット用の2つの権利処理が必要であったことがネックになってこれが円滑に進められなかった。
改正により、従来、放送の場合に求められている著作権処理と基本的に同じ要件でネット配信の場合にも権利処理ができることにし、手続きを簡便にした。
この法整備により、ネット配信で提供されるテレビ番組も、数がかなり増えるものと期待されるという(文化庁「著作権法の一部を改正する法律の説明資料(条文入り)」参照;小寺信良,ITmedia「この3年で4回の著作権法改正、いったいどこがどう変わったのか 忘れられがちな改正内容を整理する」参照)。