結ぶべきは、賃貸借契約か使用貸借契約か?
東京地方裁判所平成16年4月28日判決およびその控訴審の東京高等裁判所平成16年9月15日判決は、
① 貸主Aと借主B間で建物賃貸借契約を締結。
② BからAに対し敷金(保証金)を預けた。 → 将来の敷金返還請求権(債権)を取得。
③ BからAに対し毎月賃料債務を支払う関係を継続。
④ ところがある日、Aの債権者Cが、AのBに対する賃料債権を差押えた。
⑤そこで、Bは差押後に発生した賃料をAにもCにも支払わないで、その後一定期間経過した後でAB間の賃貸借契約を解除し建物を明け渡した後に、敷金返還請求権を自動債権として、Aに対する賃料債務と相殺した。
という事実の下では、その相殺は有効であると判示しました。
その理由として、裁判所は、「未払賃料債権に対する敷金の充当が認められるのは、敷金が賃料債権、賃貸借終了後の目的物の明渡しまでに生ずる賃料相当の損害金債権、その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得することとなるべき一切の債権を担保することを目的とするものであり、目的物の返還時に残存する賃料債権等は敷金が存在する限度において敷金の充当により当然に消滅することとなるという敷金契約の性質によるものであるから」である、と述べております。
なお、付け加えて、判決は、
⑥ 賃料債権に対する差押えの根拠が担保権に基づくものであるか、債務名義に基づくものであるかによって結論を異にするものではない。
⑦ また、強制執行に基づく賃料債権の差押えの場合の方が抵当権の物上代位に基づく賃料債権の差押えよりも保護の要請が高いとか、賃貸人が賃料債権の回収のために転貸賃料を差し押さえる場合が他の場合よりも保護の要請が高いとは必ずしもいえない。
⑧ その他、被告(賃借人A)が仮差押え後に賃料を供託しなかったこと(当該供託は義務ではない。)や差押えの時点で目的物の明渡しが決まっていなかったこと、原告に多額の回収不能の債権が残ることなど原告の主張する事情はいずれも、賃料債権に対する敷金の充当を否定する理由にはならない。とも述べております。