言葉 16 褒(ほ)める
アップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズの父親は、アメリカに留学してきたシリア人、電気自動車で有名なテスラのイーロン・マスクCEOは南アフリカ出身、Googleのセルゲイ・ブリンはロシア出身、エヌビディアのジェーン・ソンファンは台湾出身、Microsoftとアルファベットの現会長はどちらもインド人だそうです。そのほかにも、アメリカでは、ユニコーン(創業から10年以内、企業評価額が10億ドル以上の未上場のベンチャー企業)やデカコーン(企業評価額で100億ドルを超える巨大未上場企業)の創業者には、移民やその子が多いということです。
ドイツも、移民の受け入れには積極的です。雑誌「プレジデント」(2021年9月3日号)の大前研一氏の論説によれば、ドイツは60年前から系統的な移民受け入れ政策をとっているということです。1961年にトルコとの間に協定を結び大勢の移民の受け入れをし、現在は、人口約8300万人のうちトルコ人は300万人もいると言います。そのような人たちがつくった会社の活躍には目を見張るものがあるようです。
最近の大きな成果に、トルコからの移民1世の夫と2世の妻が経営している会社ビオンテックが、アメリカのファイザーと共同開発したコロナワクチンでは、世界に先駆けて有効性を発表したほどであり、同社の副社長に迎えたハンガリー人の生化学者のカリコ・カタリン博士は、ノーベル賞候補に擬されるほどの有名人だそうです。
「多様性を受け入れた勢力は必ず勝つ」という哲理のあることは、楚漢の戦いで見ましたが(コラム46参照)、移民は、多様性を受け入れる例の最たるもの。移民を受け入れた国と移民を受け入れていない日本と比べると、相当大きな差が生じているものと思われます。まず、日本ではGAFAMのような企業群が生まれていないこと、独仏に比べると労働生産性がかなり低いこと(独仏の労働者は、日本の労働者に比べて7割程度の労働時間で、経済成長率は日本の2倍もあげていること。コラム24参照)からも明らかです。
日本も、やがては、移民を計画的に受け入れることになると思われますが、ただ、日本の場合、移民を受け入れたからといって、それで経済的な成長を遂げうるかは別問題だと思います。日本の経済成長を妨げる原因は、他にもあるからです。それは学問・研究の多様性を否定する行政の岩盤規制があることです。その全てかその一例かは、分かりませんが、それを次のコラムで説明します。