言葉 14 プラスの言葉
箴言(しんげん)は、誰(だれ)でもつくることができます。必要に迫(せま)られれば、それまでの蘊蓄(うんちく)に英知(えいち)を加えて、七歩(ななほ)歩(あゆ)むだけの短い時間内でも、つくることができると思います。曹植(そうしょく)がそれをやってみせてくれたからです。
すなわち、三国志で有名な曹操(そうそう)の長男である曹丕(そうひ)が、魏(ぎ)の皇帝(文帝)になった後のある日のこと、弟の曹植に対し、七歩あゆむ間に兄弟という言葉を用いないで兄弟のことを作詩せよ、それができれば許すが、できなければ死罪に処すと詩文(しぶん)の作成を命じたところ、曹植がみごとそれをやってのけたのです。曹植が作った詩は、
煮豆燃豆萁(豆を煮(に)るに豆(まめ)殻(がら)を燃やす)
豆在釜中泣(豆は釜中(ふちゅう)にあって泣く)
本是同根生(もとよりこれら同根より生ずるを)
相煎何太急(あい煎(に)ること何ぞはなはだ急なる)
というものですが、この詩は「兄弟」という言葉を使わずして、兄弟のことが、そのうえに曹丕と曹植の関係が、それぞれの置かれた立場が、そして曹植の心情までが、手に取るように分かる内容になっています。
ですから、人は、火事場(かじば)の馬鹿(ばか)力(ぢから)よろしく、窮地(きゅうち)に追(お)い詰(つ)められると、意外な力を発揮するものと思われるのです。