ロータリー9 ロータリーでは、心緒乱れる経験は貴重
映画「英国王のスピーチ」の主人公は、現英国女王エリザベス2世の父、ヨーク公爵(後のジョージ6世)ですが、5歳のころより吃音(きつおん)になり、言葉が自由に喋れない人でした。この言語障害は、スピーチを必須のこととして重要視されている王室メンバーとしては、まことにゆゆしき問題でした。むろん、彼の言語障害を矯正する訓練は、最高の学者その他の専門家の手に任されるのですが、成果は上がりません。そうした中、ヨーク公の妻が、ロンドン市内で言語矯正の仕事をしているオーストラリア人を訪ねるのです。このオーストラリア人は、専門家でもなんでもない人でしたが、ただ、第一次世界大戦に出征した兵士が、戦地から帰ってくるや吃音になっている人が多いことに気がつき、その矯正をしてきた人物でした。彼は、彼独自の矯正法でヨーク公に対処していきますが、ヨーク公の身分意識が邪魔をしてうまくいかず、いったんこのオーストラリア人は解任されます。そうした中で、ヨーク公の兄であるエドワード8世が離婚歴のあるシンプソン夫人と結婚するために王位を捨てるという事件が起こります。その結果、ヨーク公は、王位を継ぎ、ジョージ6世になりましたが、国王になるやスピーチの機会は急増します。そのためジョージ6世は、より真剣にオーストラリア人の吃音矯正師から学ぼうとするのです。その効(かい)があって、ヨーク公からジョージ6世になったこの人物は、その戴冠式の直後にラジオを通して全国民にスピーチをするとき、見事なスピーチをしたのです。専門家でも直せなかったヨーク公の吃音。何故、直せたのか?専門家でもない人物、ドクターの資格もない男が、国王の吃音を治したのですから、ここに学問がなかったとは思いません。やはり、このオーストラリア人は、多くの発音障害者を直してきたその実績の中から、吃音矯正学ともいいうる学問を学んだのだと思われます。学問は、資格をもった人だけの専売品ではないのですから。