賃借人が賃借建物内で死亡していたとき
Q
借主は、これまで賃料を賃貸人の口座へ振り込んでいたが,賃貸人死亡により当該口座が凍結され,賃料を振り込むことができなくなった。賃貸人の相続人とは連絡がとれない、という場合、借主はどうすればよいか?
A
供託所へ賃料を供託すべきであると考えられます。
〔理由〕
1 採るべき手段
賃貸人が死亡した場合,賃貸人の地位は当該賃貸人の相続人に相続されます。賃貸人死亡後の賃料債権は,当該賃貸人の「各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する」と解されています(最高裁平成17年9月8日判決)。
すなわち,貴社は相続人に対し,相続分に応じた賃料を支払う義務を負います。
お聞きした内容によると,貴社は,賃貸人の相続人である債権者を確知できない状態にあると考えられます。したがって,貴社としては,賃料を供託所へ供託すべきであると考えられます。
2 供託の可否
供託は,「弁済者が債権者を確知することができないとき」(民法494条2項)に行うことができます。法務省は,「賃借人は,賃貸人が死亡した場合,賃貸人の戸籍の調査を行わずに,債権者を確知することができないことを理由として供託を行うことができる」との見解を公表しています(昭和38年2月4日民事甲351号民事局長許可)。
ですから、貴社の場合、「債権者を確知することができない」ことを理由として,賃料を供託することができると考えられます。
3 供託の手続
相続人である賃貸人の妻の住所は判明しているとのことですので,妻の住所を管轄する地方法務局へ賃料全額をまとめて供託することとなります(法務局へ電話確認済み。)。供託書の書式(法務省作成)を添付しますのでご確認ください。
貴社が供託を行うためには,作成後3か月以内の代表者の資格を証する書面(登記事項証明書等)が必要となります。
なお,供託の方法は,今までの未払い賃料についてはまとめて供託し(一括供託),今後発生する賃料については弁済期までに毎回供託することとなります。