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遺言執行者観に関する謬説がなくなるまで④

2019年7月4日 公開 / 2019年7月5日更新

コラムカテゴリ:法律関連

4 法律論とは言えない法律論を唱えた日弁連・懲戒委員会議決

 日弁連懲戒委員会がつくりあげた法律論6項目に見られる日弁連・懲戒委員会の法律論は、法律論、すなわち法律に根拠を置いた論になっているかというと、なっていない。要は、法律論としては成立しないものばかりであった。
以下、解説する。

論点① 遺言執行者は相続人の代理人か?

違う。
遺言執行者には、相続人を代理する権限がない。この一事をとっても遺言執行者が相続人の代理人でないことは明らかである。学説・判例も一致して、遺言執行者が相続人の代理人であることを否定している。
代理権のない者を代理人だという背理を、学説や判例が受け入れるはずはないからである。

論点② 弁護士が遺言執行者と相続人の代理人を兼任することは、利益相反になるか?

ならない。
3項で解説したとおり、日弁連・総会は、わざわざ旧規程26条2号を新規程28条3号に改正して、裁量の余地のない遺言の遺言執行者になった弁護士が、受遺相続人の代理人と兼任しても、利益相反にならないことを明らかにしたことからも分かることである。

論点③ 相続人は遺言執行者に対し、相続財産目録の交付を求める権利があるか?

ない。
遺言執行者が相続財産目録を作成して相続人に交付する規定(1011)はあるが、これは遺言執行(1012)の対象となる遺産を特定し、その遺産については相続人に遺言執行を妨害させないため(1013)の規定である。そのため、遺産目録は、遺言執行者が遺言執行の対象にする遺産(1014)に限ってつくるものとされているのである。このことは、有斐閣・注釈民法(28)の1011条の箇所にも、1014条の箇所にも書かれていることである。

相続人には遺言執行者に対し遺産目録を作成・交付することを請求する権利はないのである(名古屋家裁平成7年10月3日審判)。

論点④ 「遺言執行者である者が相続人の一方の代理人になることは許されないということは懲戒先例として確立している」といえるか?

いえない。
間違った先例として13年議決があるだけである。
13年議決は16年の日弁連・総会での旧規程の廃止と新規程の制定でもって明確に否定された。
なお、日弁連・懲戒委員会は日弁連規則を適用する日弁連内の司法機関であるが、日弁連・総会は日弁連内の立法機関である。立法機関のいう立法趣旨に反する司法判断を、司法機関がすることは許されない。にもかかわらず、日弁連懲戒委員会は独自の道を歩いているのである。

論点⑤ 遺言執行者は、相続人から委託された者であるのか?
また、遺言執行者は、相続人から調査を求められると、遺産調査をして相続人に報告する義務があるか?

前者は違う。後者について義務はない。
遺言執行者は、相続人から委託された者ではない。
遺言執行者は、遺言者が指定する(1006)か、遺言者が指定の委託をした第三者が指定するか(1006)、利害関係人の請求によって家庭裁判所が選任する(1010)方法でしか就任できないのである。
また、遺言執行者は相続人から遺産の調査を求められても、調査をする義務はない。
遺言執行者は、遺言者の意思を実現する者であって、遺言執行と関係のないことを相続人から求められても、それに応える義務はないのである(名古屋家裁平成7年10月3日審判)。

論点⑥ 受遺相続人の代理人になった弁護士が、相続人廃除をする遺言執行者になることは、職務の中立、公正さを疑わせることになると言えるか?

言えない。
ここでの日弁連・懲戒委員会の論立ても、裁量の余地のない遺言執行を、裁量権を行使して(中立・公正に)行えという背理の論立てある。
存在しない裁量権は、行使することが不可能だからである。
また、相続人廃除の際の「中立」や「公正」という言葉は、定義付けのできないレトリック(修辞)である。
どうすれば相続人廃除が中立・公正にできるのか?
なんぴとにも、むろん日弁連・懲戒委員会にも回答ができないからである。

さらに、相続人廃除が、中立でも公正でもないとしても、それは遺言の内容(遺言者の意思)であって、遺言執行の方法(遺言執行者の意思)ではない。

背理を用い、定義付け不可能なレトリックを使い、遺言者の意思を遺言執行者の意思だと言う論立ては、法律家のする論立てではない。

なお、21年議決事件の対象弁護士は、横浜家庭裁判所から遺言執行者に選任された者であるが、同家庭裁判所も、東京高等裁判所も、相続人からなされた同弁護士に対する遺言執行者解任請求を、理由はないとして認めなかった。
つまり、裁判所は、受遺相続人の代理人になった弁護士が他の相続人の廃除をする遺言執行者になることを、なんら問題にしていないのである。

この記事を書いたプロ

菊池捷男

法律相談で悩み解決に導くプロ

菊池捷男(弁護士法人菊池綜合法律事務所)

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