第3章 相続の効力 1 相続の一般的効力
【条文】
(配偶者居住権)
第1028条
被相続人の配偶者(以下この章において単に「配偶者」という。)は、被相続人の財産に属した建物に相続開始の時に居住していた場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、その居住していた建物(以下この節において「居住建物」という。)の全部について無償で使用及び収益をする権利(以下この章において「配偶者居住権」という。)を取得する。ただし、被相続人が相続開始の時に居住建物を配偶者以外の者と共有していた場合にあっては、この限りでない。
ⅰ 遺産の分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。
ⅱ 配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき。
2 居住建物が配偶者の財産に属することとなった場合であっても、他の者がその共有持分を有するときは、配偶者居住権は、消滅しない。
3 第903条第4項の規定は、配偶者居住権の遺贈について準用する。
【解説】
1項
・配偶者居住権は、相続人である配偶者のみに認められる権利です。
・配偶者居住権は、それまで居住していた建物全部に、無償で住める権利です。それまで使っていなかった部屋を含めた建物全体を使える権利なのです(第1032条1項ただし書参照)。
・配偶者居住権が認められる建物は、被相続人が単独所有をしていた建物に限られます。他の者(配偶者以外の者)と共有していた建物について配偶者居住権は認められません。
・配偶者が配偶者居住権を取得するのは、
遺産分割で得たとき(ⅰ)か、
被相続人が遺贈してくれたとき(ⅱ) に限られます。
2項
配偶者居住権の目的になった建物が、その後配偶者の単独所有になれば、配偶者居住権は混同によって消滅しますが、配偶者が単独所有をしないで共有者の一人になる場合は、配偶者居住権は消滅しません。
3項
婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、配偶者居住権について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について持戻免除の意思表示をしたものと推定されます。
【補説】
1―1 建物の全部についての権利
配偶者が、それまで被相続人と共に生活していた建物全部について、無償で終章使う権利が、配偶者居住権です。
したがって、建物の所有権を取得した者から、配偶者に対し、配偶者がそれまで使っていなかった部分を使わせろという権利はありません。
建物所有者に、そのような権利を認めると、配偶者に安心して住める権利の保障ができないからです(第1032条1項ただし書参照)。
1―1 配偶者居住権制度が創設された背景
少子高齢社会に入ってから、高齢の相続人になった配偶者の、それまで住んでいた我が家での居住を確保する、必要とニーズが高まってきました。
しかし、我が家の価額は高く、高齢の配偶者は、我が家をとれば、老後の資金に事欠き、老後の資金をとれば、我が家を後にしなければならないという二律背反を、強いられる人が多数でるようになったのです。
そこで、高齢の配偶者が、安心して我が家にも住み続けることができ、かつ、生活の資にも困らない方法が模索させ、我が家の権利を、下図のように二つに分ける考えが生まれたのです。
自宅所有権の評価額(例:2000万円) →
配偶者居住権の評価額(例:1000万円)
+ 負担付き所有権の評価額(例:1000万円)
そのような経緯を経て、平成30年改正で、配偶者居住権が創設されました。
この権利は、①相続開始後にする遺産分割と②遺贈のときだけに認められる権利です。