2 祭祀に関する権利の承継
第7章 遺言 第1節 総則 方式・能力・遺贈ほか
遺言の章の第1節総則に定められた条文は、下記の第960条から966条までです。
【条文】
(遺言の方式)
第960条 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。
(遺言能力)
第961条 15歳に達した者は、遺言をすることができる。
第962条 第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。(著者注:民法総則で定めた能力規定は適用しないというもの)
第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。
(包括遺贈及び特定遺贈)
第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
(相続人に関する規定の準用)
第965条 第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。
(著者注:胎児も受遺者になり得ること、相続人適格事由に該当する者は受遺者になれないことを定めた規定)
(被後見人の遺言の制限)
第966条 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
【解説】
1 方式の重要性
遺言には方式が定められております。
方式に反する遺言は無効になります。
それは遺言の趣旨が不明確であるからといって、遺言者の死後遺言者にその趣旨を尋ねることができない以上、やむを得ないことになります。
遺言の方式の具体的内容は、第2節に規定されております。
2 遺言能力
遺言をするには、遺言の意味を理解する能力が必要です。この能力は「遺言能力」といわれますが、15歳に達した者には、この遺言能力が認められています(961)。
しかし、被後見人は、後見人に対し弱い立場にあるところから、後見人に有利に書かれた遺言は、原則として無効になります(966)。
なお、成年被後見人がする遺言については、方式の上に更に一定の方式が定められています(後述973)。
遺言能力は、遺言をする時において、備えていなければなりません(963)。
実務で問題になるのは、高齢者や認知症の人の遺言の効力です。
高齢で、物事を忘れやすくなった人がする遺言については、実務上しばしば、遺言時には遺言能力を欠いていたという争いが起こっているのです。
ですから、その疑いのある人が遺言をする場合、成年被後見人の遺言の場合と同じく、医者の証明などを得ておく必要があるものと思われます。
遺言者が、遺言するときの様子をビデオに撮影し、後日争いになったときの証拠にするなどという智恵が実務では見られます。
3 遺贈
(1)種類
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります(964)。
包括遺贈とは、割合で遺贈する意味の遺贈で、財産全部を遺贈すると書くと全部の包括遺贈になり、財産の一定割合(例えば3分の1)を遺贈すると書くと、一部の包括遺贈になります。
特定遺贈とは、財産を特定して遺贈することをいいます。
(2)受遺者
遺贈を受ける者は受遺者といわれます。相続人へも遺贈できますが、多くの場合は、相続人以外の者への遺贈です。
(3)債務の承継の有無
包括遺贈と特定遺贈では、債務を承継するかしないかという大きな違いがあります。
すなわち、包括遺贈は、民法第990条が「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と規定しているところから明らかなように、相続財産のみならず、相続債務も承継するのです。
一方、特定遺贈は、相続債務を承継することはありません。
しかしながら、特定遺贈でも、包括遺贈と解される場合があります。
次のような裁判例がありますので、注意が必要です。
高松高等昭和32年12月11日判決
「左記土地建物及び家具一切を挙げて」と記載して本件土地及び同地上旧家屋を表示していることは遺言者の所有する左記土地建物を始めとして家具等一切の財産を挙げて」という趣旨である。(たゞ「左記土地建物」が右分家の特に主要な財産であつたから、特にこれを表示したに過ぎない)・・・以上の事情を考合すれば・・・包括遺贈をしたと見るべきである。
【特徴】
遺贈包括遺贈 → 割合を遺贈 → 債務も承継する
特定遺贈 → 特定の遺産を遺贈 → 債務は承継しない
4 その他
受遺者には、胎児もなり得ます。
受遺者に相続人欠格事由と同じ事由があれば、受遺者資格を失います。
これが、民法第965条の「第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。」と規定された内容のことです。