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5 相続分の指定と債権者の権利
平成30年改正相続法で、次の条文が新設されました。
【条文紹介】
(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使)
第902条の2 被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第900条及び第901条の規定により算定した相続分(注:法定相続分)に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。
【解説】
相続分の指定がある場合、相続人は、遺産のみならず、相続債務も、その指定相続分だけ相続することになります。
民法第899条が「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」と規定しているからです。
しかし、指定相続分を、債権者に強制することは、問題があります。
そこで、判例は、このような債権者を保護するため、下記の判決で、債権者に法定相続分で請求することを認めました。しかし、同時に、債権者から指定相続分で請求することもできる(いずれの相続分で請求するかを選択できる)ことにしました。
平成30年の改正法は、この判例法理を前記の条文にしたのです。
【参照判例】
最高裁判所第三小法廷平成21年3月24日判決
(相続分の指定は)・・・相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。