間違えやすい法令用語 28 「・・・の日から○日間」・「・・・の日から起算して○日間」
私が、書きました下記の記事のうち、5の⑴の内容についてご質問がありました。
ご質問は、
「原本はあくまで原本であって、正本が原本ということはありえないのではないのでは。
例えば、ある文書の原本と正本1通と謄本1通があったとして、作成者が作成した文書(原本)が火事で灰燼に帰してしまったなら、原本はこの世から消えてしまって(原本は一度失われたら「不存在」となり再現は不可)、正本と謄本だけが残っている、のであって、残っている正本は原本と同じ法的証拠能力を持ちはするけれども、あくまでも原本ではない、ということではないのですか。 」という内容です。
そこで、回答をさせていただきますが、最初に、ご質問くださったことに感謝を申します。
ありがとうございました。
そこで、回答です。
通常、原本と正本と謄本という場合、これらの用語は、書類の法的な性格の違いを明らかにするための、いわゆる講学上の概念(学問上の言葉)です。
一方、戸籍法8条1項に規定された「戸籍は、正本と副本を設ける。」でいう「正本と副本」は、法令上の概念です。
法令上の概念が講額上の概念と一致するとは限りません。
それは、次のコラムをご覧ください。
http://mbp-japan.com/okayama/kikuchi/column/1860/
ですから、戸籍法8条1項でいう、「正本と副本」は法令用語であって、講額上の概念としては「原本」なのです。
ですから、同条2項で「正本は、これを市役所又は町村役場に備え、副本は、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局がこれを保存する。」と規定しているのは、「正本と名付けたオリジナルの書面(法的概念は「原本」)は、これを市役所又は町村役場に備え、副本と名付けたオリジナルな書面は、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局がこれを保存する。」ということになるのです。
ご理解いただけたでしょうか。
私の書いた記事
1 原本の意味
「原本」とは、文書の作成者が作成した文書そのものを指します。要は「オリジナルの文書」です。
民事訴訟法252条は、「判決の言渡しは、判決書の原本に基づいてする。」と定めています。判決書の正本や謄本では、言い渡しはできません。
2 謄本の意味
「謄本」とは、「原本」と同一の文字・符号を用いて、「原本」の内容を完全に写し取った書面のことをいいます。要は「全部の写し」です。
謄本は、原本の存在とその記載内容の全部を証明するために作られるものです。
戸籍謄本や登記簿謄本がありますが、戸籍謄本は、戸籍簿に編綴された文書である戸籍と同じ内容がすべてが書かれた文書です。この場合、戸籍簿に編綴された文書が原本です。
3 正本の意味
⑴ 正本は謄本の一種
「正本」とは、「謄本」の一種ですが、とくに法律によって、原本の作成権限のある者が、「原本」に基づきとくに「正本」として作成し、外部に対しては「原本」と同一の効力をもって通用する文書をいいます。
例えば、判決正本です。
民事執行法25条本文は「強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する。」と規定していますが、債務名義の1つである判決の原本は裁判所に保管され、当事者が強制執行のためにそれを執行裁判所や執行官に提出するということができないために、正本を提出することで強制執行がなされることになっているのです。
⑵ 抄録正本
「正本」は「原本の一部」について作成されることもあります。
例えば、公証人法49条1項は「・・・有用ノ部分及証書ノ方式ニ関スル記載ヲ抄録シテ其ノ正本ヲ作成スルコトヲ得」と規定して、「抄録して正本を作る」ことを認めているのです。
この「抄録して」作られた「正本」は、同条2項で「前項ノ正本ニハ抄録正本タルコトヲ記載シ・・・」と規定されているように、「抄録正本」と呼ばれます。
4 抄本の意味
「抄本」とは、「原本」の一部について、原本と同一の文字・符号を用いて、これを写し取った書面のことをいいます。要は「一部の写し」です。
原本のうち必要な部分を証明するために作られるものです。
戸籍抄本や登記簿抄本があります。
5 正本と副本という場合
「正本」が「副本」に対する言葉として使われることがありますが、この場合は、「正本」も「副本」も同じ「原本」あるいは「謄本・抄本」になります。
⑴ いずれも「原本」である場合
例えば、戸籍法8条1項は「戸籍は、正本と副本を設ける。」と規定して、同条2項で「正本は、これを市役所又は町村役場に備え、副本は、管轄法務局若しくは地方法務局又はその支局がこれを保存する。」と規定しています。
これらは同じ文書ですが、いずれも原本です。
どこかに原本があって、市役所や法務局に、謄本である「正本」を置いておくというものではありません。
⑵ いずれも「謄本」・「抄本」である場合
民事訴訟の場で、文書を証拠として提出する場合、裁判所と相手方には、原本に基づき写し取った「謄本」・「抄本」を提出しますが、この場合裁判所に提出する「謄本」・「抄本」を「正本」、相手方に公布する「謄本」・「抄本」を「副本」といい表しています。これらは、いずれも「謄本」あるいは「抄本」です。