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悪意の不当利得者には、民法704条でいう、損害賠償の責任はない(判例紹介)

菊池捷男

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テーマ:民法雑学

1 民法704条の規定
 民法704条は「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」と規定しています。

2 判例
 最高裁判所第二小法廷平成21年11月9日判は、「不当利得制度は,ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に,法律が公平の観念に基づいて受益者にその利得の返還義務を負担させるものであり,不法行為に基づく損害賠償制度が,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであるのとは,その趣旨を異にする。不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。したがって,民法704条後段の規定は,悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて,不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず,悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。」と判示し、金融業者が、悪意で利息制限法で定めた利率を超えて利息の支払を受けた結果不当利得(過払金)返還義務が生じたが、金融業者はそれを知りながらなお利息の支払を受け続けた場合は、悪意の不当利得者になるところ、その場合ても、顧客は、民法704条に基づいては、金融業者に対し、過払金の返還請求訴訟に係る弁護士費用相当額の損害賠償の請求はできないと判示しました。

3 コメント
 原審高裁は、民法704条に定められた【悪意の受益者の責任】を、同法が定めた特別責任であるとして、不法行為の要件を満たしていなくとも、その責任がある、と判示したのですが、判例は上記の判断を下したのです。
 文理解釈では原審高裁の判断が正しそうですが、法の全体から見ると、民法704条を特別の損害賠償責任だと、法の統一がとれないと考えたのかもしれません。そこから、不法行為の要件が認められない不当利得受益者に損害賠償義務を認めるべきではない、と考えたものと思われます。
無論、民法709条の要件を満たす場合は、顧客はそれに基づき損害賠償請求はできますが、それは別個の問題です。

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菊池捷男(弁護士)

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