出資比率は絶対ではない(出光興産事件)
「のう、後藤!2017-09-06 コラムに書いたが、取締役には、事業経営上ある程度リスクを冒すことは許されているわなあ。これは経営判断原則といわれるものだよな。ところで、同じ経営判断原則といっても、金融機関の頭取をはじめとする取締役の場合は、一般の事業会社の取締役より厳しい枠が設けられているようだな。その理由と基準は何だい。」
「それは、某都市銀行の代表取締役頭取が、取引先に対し不適切な融資をしたとして特別背任罪に問われた刑事事件で、最高裁判所平成21年11月9日決定が明らかにしたので紹介するよ。」
【最高裁決定から引用】
銀行の取締役が負うべき注意義務については,一般の株式会社取締役と同様に,受任者の善管注意義務(民法644条)及び忠実義務(会社法355条)を基本としつつも,いわゆる経営判断の原則が適用される余地がある。
しかし,銀行業が広く預金者から資金を集め,これを原資として企業等に融資することを本質とする免許事業であること,銀行の取締役は金融取引の専門家であり,その知識経験を活用して融資業務を行うことが期待されていること,万一銀行経営が破たんし,あるいは危機にひんした場合には預金者及び融資先を始めとして社会一般に広範かつ深刻な混乱を生じさせること等を考慮すれば,融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は一般の株式会社取締役の場合に比べ高い水準のものであると解され,所論がいう経営判断の原則が適用される余地はそれだけ限定的なものにとどまるといわざるを得ない。
したがって,銀行の取締役は,融資業務の実施に当たっては,元利金の回収不能という事態が生じないよう,債権保全のため,融資先の経営状況,資産状態等を調査し,その安全性を確認して貸付を決定し,原則として確実な担保を徴求する等,相当の措置をとるべき義務を有する。例外的に,実質倒産状態にある企業に対する支援策として無担保又は不十分な担保で追加融資をして再建又は整理を目指すこと等があり得るにしても,これが適法とされるためには客観性を持った再建・整理計画とこれを確実に実行する銀行本体の強い経営体質を必要とするなど,その融資判断が合理性のあるものでなければならず,手続的には銀行内部での明確な計画の策定とその正式な承認を欠かせない。