ホールディングスのメリット・デメリット
1 名目取締役
「のう、後藤!名目取締役という呼び方があるのか?」
「あるよ。名目取締役というのはなあ、取締役として適法に選任され登記されているが、取締役としての職務をしなくてよい旨の合意に基づいて、取締役に就任している者をいうんだよ。」
「そのような名目取締役には、取締役としての義務はあるのかい?」
「取締役には、対内的な責任と対外的な責任があるが、対内的な責任としては、権限のない事柄については責任を負わないとされているよ。すなわち、東京高等裁判所平成15年9月30日民事第八部判決は、一人株主が会社の主宰者として経営の全般を掌握し、経理、会計事務についても、経理担当者を直接指揮監督していたものである一方で、全く取締役としての職務を行うことはなく、単なる名目上の代表取締役にすぎなかった者で、特に経理、会計事務については一人株主との事実上の合意・了解の下に、全くこれに関わることがなかったという場合は、善管注意義務や監視監督義務を免除されていたものというべきであり、会社の債権者その他の第三者に対する関係や責任についてはともかく、会社に対する関係においては、善管注意義務や監視監督義務の責任を負わないものと解するのが相当である、とされ、この判決は最高裁判所でも維持されているよ。なお、西川昭「一人会社における名目取締役の会社に対する責任(消極)」金判1205号63頁)を参照するとよいよ。」
「ふ~ん。で、会社の債権者その他の第三者に対する関係や責任についてはどんなんだい。」
「これは、昭和44年11月26日の最高裁大法廷判決でな、代表取締役が、他の代表取締役その他の者に会社業務の一切を任せきりとし、その業務執行に何等意を用いることなく、ついにはそれらの者の不正行為ないし任務懈怠を看過するに至るような場合には、自らもまた悪意または重大な過失により任務を怠つたものと解するのが相当である、と判示されているんで、対第三者関係では、責任はあるんだよ。
2影の取締役
「のう、後藤、影の取締役という用語もあるんかい?」
「あるよ。影の取締役(shadow director)」とは、取締役として株主総会で選任されていなく、登記もされていないが、支配株主が会社に対する事実上の支配力にもとづいて、(影に隠れて)取締役に対して、指揮・指図をして取締役をロボットのように動かしている者をいい、事実上の取締役(de facto director)」ともいわれるよ。」
「影の取締役には、取締役としての責任はあるんかい?」
「我が国の会社法には、影の取締役や事実上の取締役の定義もなく、これに関する規定もないが、会社が倒産した場合において、会社債権者が実質的な支配者に損害賠償責任を追及するときに、この問題が生じているよ(坂本達也「影の取締役の基礎的考察」)。 なお、参考までにいうと、イギリス会社法には、影の取締役が明文上定義されており、会社を支配できる立場を利用して、取締役を実質的にコントロールする者を取締役としてとらえ、その者に正規の取締役と同様の責任を負わせることができるようにしているよ。」
「我が国には、影の取締役に関して判例はないのかい。」
「判例はないが、前記東京高等裁判所平15・9・30(金判1205号63頁、上告不受理)は、名目取締役には善管注意義務はないとする一方で、影の取締役の責任は肯定しているよ。」