第2章 1遺産分割 5遺産分割の方法
補筆
1相続の開始の時について
相続は、人の死亡の時に、開始します。
間違った表現
“父が亡くなりましたが、まだ相続はしていません。"
という言い方は、間違いです。正しくは、
“父が亡くなり相続は開始しましたが、遺産分割はまだしていません。
あるいは、
“父が亡くなり相続は開始しましたが、遺言執行など遺産相続の手続はまだしていません。"
と言うべきです。
“父が亡くなったが、まだ相続はしていないので、相続税はまだ納めなくてもよいのでしょう。" などという質問を受けることもありますが、とんでもないことです。
相続税は、人の死亡の日を基準に10か月以内に納めなければ、配偶者控除や小規模宅地の減税措置は受けられないことになっています。
2 相続人は法定されている。
相続人は、法律(民法)で定められています。相続人のことを「法定相続人」というのもこのためです。
3 遺言権の前に相続人なし(現行民法以外の世界)
我々日本人は、相続を権利と考えていますが、古代ローマ時代は、相続権という概念はなく、遺言権という概念のみがありました。
すなわち、人は、遺言書で、相続人を決め得たからです。
考えてみれば、遺産となる財産は、生きている人のものです。つまりは、やがて亡くなる人のものなのです。
古代ローマでは、やがて自分が亡くなった後、その財産を誰に取得させるかを決める権利が、ローマ市民に認められていました。この権利は、遺言権といわれたのです。
生きている人が、遺言権をどう行使する分からない段階では、相続人なる者もいません。いわゆる推定相続人といえる者はいなかったのです。
遺言書の内容いかんでは、子であっても何も相続できないということがあったのです。ですから、相続権の前に相続人なしという状況だったのです。
我が国の過去においても、相続権ではなく、遺言権、正しくは、遺言書によるとよらないにかかわらず、人が生きている間に相続人を決める権利があったのです。
徳川家康が、二代将軍の地位のみならず、徳川家の財産をも、次男の結城秀康ではなく、三男秀忠に相続させたのは、その相続人を決める権利によるものです。
これは武士社会のみでなく、商家でも同じでした。
大阪商人など、長男に家の財産(家督)を相続させず、長女に婿を迎えさせ家を相続させることもよく見られたのです。