9 手付解除はいつまでならできる?
京都地方裁判所平成12年10月16日判決を紹介します。
1 売買契約と、その後の被害の発生
本件は、購入者の希望を取り入れたいわゆる注文住宅を建築して敷地とともに販売する、という内容の売買契約を結んだ買主が、その後、宅地全体に生じた地盤の圧密沈下により、建物につき全体的に外壁や基礎コンクリートに多くの亀裂が発生し、建具にも機能障害や建付不良が発生した、という損害をこうむったことから、分譲会社に対し不法行為責任による損害賠償請求権を認めた判決です。
判決書の中に、「建築業者の安全性確保義務」という用語が見られますので、その内容を紹介いたします。
なお、以下の文章は、見出し以外は判決からの引用文です。
これらを並べるだけで、問題点がよく分かります。
2 売買契約当時の法規制
この売買契約の舞台である京都市では、「開発者等は、埋戻しの際には、各層(一層三〇センチ程度)ごとに、十分に締め固めなければならない」との基準を示しており、建物の基礎に関しては、建築基準法施行令38条2項で、「建築物には、異なる構造方法による基礎を併用してはならない。ただし、建築物の構造、形態、及び地盤の状況を考慮した構造計算又は実験によって構造耐力上安全であることが確かめられた場合においてはこの限りでない。」と定められていた。
3 建物の建築の仕方
本件建物は、切り土地盤まで到達した地下式ガレージのコンクリート基礎(構造的にはベタ基礎と同視できる基礎)と、特に、切り土地盤まで達する支持杭の設けられないまま、盛り土地盤に直接設置された布基礎という、一体となっていない異なった構造方法による基礎に跨って建築されていた。
4 地盤の現況
本件盛土地盤は、それに対する締め固め作業(転圧作業)が十分に行われなかったために、支持力の弱い地盤層が地中に残ってしまい、その上に建てられた建物の荷重等には耐えられない地盤になってしまった。
5 そのため建物は?
そのため、支持力の強い切り土地盤に基礎を置く地下式ガレージに乗った建物部分は沈下しなかったものの、支持力の弱い盛土地盤部分の布基礎部分はその上の建物荷重に耐えられずに圧密沈下を起こして傾斜した結果、各建物は、地下式ガレージ部分と盛土盤部分を境にして、あたかも折れ曲がったような状況に至った。
6 建築業者の安全性確保義務と不法行為責任
建築業者である以上、建築物の定着する地盤が平らで均一な支持力を有するものばかりではないことは当然認識すべき事柄であって、特に、傾斜地を切り開いて造成された盛土地盤に建築物を建てようとするときには、性質上支持力の弱さが容易に予見できるというべきである。したがって、建築業者としては、建物を建築するに当たり、その基礎を設ける地盤の支持力が十分か否かを調査し、支持力の異なる地盤に基礎を設けざるを得ないときは、一体的な基礎を設けた上で、その基礎が所々で支持力の違う基礎とならないように支持力の弱い地盤上の基礎部分には堅固な地盤まで支持杭を延ばして表面部分の基礎を支えるなどの工夫をするなどして、不同沈下を起こすことのないよう配慮すべき義務があるというべきである。
なぜなら、これは生命・身体・財産の保護と公共の安全が図られる建物の建築を請負うべき社会的責任のある建築業者としては、当然尽くすべき基本的な注意義務と解されるし、建物の注文者も、建物を取り巻く社会環境もこれを期待していることはいうまでもないからである。
しかしながら、前記認定事実によれば、被告は、本件建物を建築するに当たり、その敷地が盛土地盤であることを知りながら、何らの地盤調査も行わなかったばかりか、支持力の異なる異種構造基礎に跨って各建物を建築したというのであるから、建築業者として負うべき建物についての安全性確保義務に違反していることは明らかというほかない。
よって、被告は、民法709条により、本件建物の傾斜により原告らの被った損害に対して、賠償すべき義務を負う。