市街化区域の農地についての小作契約の解約と適正な離作料
Q 当社は、建物賃貸借契約を結ぶ際、契約書の中に一定額の敷引をする旨規定していますが、
1 これは有効ですか。
2,この敷引の中には、自然損耗の原状回復費用も含まれていると考えてもよいでしょうか。
3,建物賃貸借契約が終了した後、賃借人の責めに期すべき理由による損傷があった場合、その修理費用は別途請求できますか?
A
結論を先に書きますと、
1 高額にならない限り有効
2 もともと、賃借人には自然損耗にかかる原状回復義務はないので、この費用も含まれているかとの質問は的外れ。
3 敷引額以外に、原状回復のための修理費用の請求はできない。
以下、解説します。
最初に、敷引特約についての判例を紹介しておきます。
すなわち、最高裁判所第三小法廷平成23年7月12日判決は、
①本件特約は,本件保証金のうち一定額(いわゆる敷引金)を控除し,これを賃貸借契約終了時に賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約である。
② 賃貸借契約においては,本件特約のように,賃料のほかに,賃借人が賃貸人に権利金,礼金等様々な一時金を支払う旨の特約がされることが多いが,賃貸人は,通常,賃料のほか種々の名目で授受される金員を含め,これらを総合的に考慮して契約条件を定め,また,賃借人も,賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や,その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば,賃貸借契約の締結に当たって,当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択することができるものと考えられる。
③ そうすると,賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め,賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それは賃貸人,賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない。 」
と判示しております。
この事件は、家賃が月額17万円で、敷引約束は保証金100万円のうちの60万円ですが、高額に過ぎるものではないとして、有効とされているケースです。
有効である他の理由は、契約書に明記され、金銭的な負担額を明確に認識できるようにしていることです。
次に、貴社からの質問に対してお答えいたしますが、
1の、有効かどうかは、上記判例のいうように、「敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,」は有効ということになります。
2の、敷引約束の中に自然損耗による原状回復費用が含まれているかどうかという質問に対しては、敷引以外に何らの請求もできないという意味ではその原状回復費用が含まれているといえますが、もともと自然損耗については、原状回復費用の請求はできないというのが判例ですし、上記最高裁平成23年判決における裁判官田原睦夫,同寺田逸郎の各補足意見の中にも、「保証金名下で差入れられた100万円中60万円は,明渡し後も返還されないことが契約締結時に明示されているのであるから,その法的性質が如何であれ,賃借人は本件契約締結時に,本件建物明渡し後に同金額が返還されないものであることは,明確に認識できるのである。」と判示され、また、敷引だけでなく「礼金や権利金についても,それに通常損耗費の補填の趣旨が含まれているか否かをも含めて必ずしも明確な概念ではな」いとも判示されていることからも、敷引特約の中に自然損耗にかかる原状回復費用が含まれているかどうかは、無意味な議論になっています。
なお、改正民法も、自然損耗については、原状回復義務のないことを明記しております。
参照:
改正民法第621条 賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
これらの判例及び改正法621条から明らかなことは、
ア 賃借人には、自然損耗にかかる原状回復義務はない。
したがって、自然損耗にかかる原状回復費用の賠償義務もない。
イ それ以外の損耗で、賃借人の責めに帰すべき理由によるものについては、賃借人に原状回復義務がある。
ウ 敷引特約にかかる敷引額は、イの有無、金額にかかわらず、賃貸人は賃借人に返還する義務はない。
エ 敷引額が高額に過ぎる場合は、敷引特約は無効になる(敷引額全額が無効になるというものか、相当額を超える部分が無効になるというのかは明確ではない)。
ということです。
そこで、賃貸人は、建物賃貸借契約を結ぶ場合、
(a) 敷引特約を結ぶときは、他に賃借人の責めに帰すべき事由による損傷があっても、その損害賠償請求はできないこと、 また、
(b) 敷引特約を結ばない場合は、賃借人の責めに帰すべき事由による損傷があったときは、その損害賠償請求ができるので、
契約書には、(a)か(b)を二者択一できることを認識した上で、建物賃貸借契約を結ぶべきです。
以上解説したところから、3の、自然損耗ではない損傷部分の修理費用は別途請求できるかの質問に対する回答は、できません、ということになります。
前述のように、その費用は、敷引の中に含まれているからです。
すなわち、敷引約束は、建物の損傷の有無、程度のいかんにかかわらず、敷引額をもって損害賠償の予定額とする定めと解されるからです。
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