民法雑学 農協の理事会での理事と監事の発言の差異
先日、45年前の子供の取り違えによる債務不履行を原因とした損害賠償請求権の時効は、取り違えを知った時から、消滅時効期間が進行するとの判決を紹介しましたが、一般的な不当利得返還請求権の消滅時効は、その権利が発生した時から進行します。その権利が発生したことを知らなかった場合でもです。
以下の裁判例と大審院の判例を紹介します。
すなわち、水戸地方裁判所日立支部平成20年1月25日判決
「 原告の主張する過払金返還請求権の性質は不当利得返還請求権であると解され、それは原告による個別の弁済によって生じたものであり、その発生と同時に権利行使が可能なものであるから、それらの発生時から10年の経過により時効により消滅すると解される(民法166条1項、167条1項)。原告は、消費者側は法律知識が乏しく、過払金が発生しているという認識がないとか、消費者側から取引継続中、業者に対し過払金の有無を尋ねたり取引履歴の開示を求めたりすることは事実上期待できないことなどからすると、現実には権利行使が期待できないなどと主張するが、このような見解は、過払金発生時から年5%の割合による遅延損害金が発生することと整合しないというべきであるし、上記のような各事情は、権利行使の事実上の障害にすぎず、法律上の障害ではないというべきであるから、何ら消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである。」
と判示しているのです。
そして、大審院昭和12年年9月17日判決は、
「・・・民法ニ於テ消滅時効ノ制度ヲ設ケ権利者カ権利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ一定ノ時効期間ヲ経過セハ時効ニ因リテ権利ノ消滅スルモノト為スハ蓋法律生活ノ安固ヲ計リ権利ノ存否ニ関スル紛争ノ久シキニ亙リテ発生スルコトヲ避ケンカタメニ外ナラス然レトモ権利ヲ行使スルコトヲ得ル時ヨリ消滅時効ノ進行スルモノト定ムル民法第百六十六条ノ存スルニ依リテ見レハ消滅時効ハ権利者カ権利ヲ行使スルコトヲ得ルニ拘ラス之ヲ行使セサルコトヲ前提トスルモノト謂ワサルヘカラス而シテ斯ル見解ハ権利擁譲ノ立場ヨリ見テ正当ナリト謂ウヘク・・・返還請求権発生ノ時ニ於テハ権利者ハ此ノ権利ノ発生ヲ了知スルニ由ナク之ヲ行使スルコト能ハサルモノナレトモ之レ事実上権利ヲ行使スルコトヲ得サルニ止マリ法律上行使不能ナリト云イ難ク前示民法第百六十六条ニ所謂権利ヲ行使スルコトヲ得ル時トハ法律上之ヲ行使シ得ヘキ時ヲ意味シ事実上之ヲ行使スルヤ否ヤハ何等関係ナキモノト解スヘキ・・・」と判示しているのです。
ここで注意すべきは、債権の消滅時効の制度目的です。
大審院は、「法律生活ノ安固ヲ計リ権利ノ存否ニ関スル紛争ノ久シキニ亙リテ発生スルコトヲ避ケンカタメニ」消滅時効制度を設けているので、権利の発生の事実を知らなくとも、時効は進行すると判示しているのです。