不動産 オフィスビルの場合は,通常損耗の原状回復義務があるのか?
最近、新・中間省略登記はできるという、という発言をしていたのを耳にしましたので、ここに中間省略登記という語の誕生以来の経過を書いておきます。
1 中間省略登記という言葉の意味
中間省略という言葉は、連続する複数の物権変動があるときに,中間の物権取得者を省略して,最初の登記名義人から,最終の物権取得者に,直接名義を移転する登記をいう言葉として、使用されるようになったもので、法令用語ではありません。
法令用ではないので、現在、新・中間省略登記という言葉にどのような意味を盛り込んで、どう使うかは、その言葉を使う人の自由なのかもしれませんが、、言葉は、一義的明確な定義を与えることのできる言葉を使いたいものです。
少なくとも、過去に使われた中間書略登記とは、所有権の移転は2回以上,しかし登記は1回。これが中間省略登記の意味であったのです。
2 中間省略登記のメリット,デメリット
(1) このメリットは,登録免許税が1回分で済んだことです。
なお,中間省略登記をすると,不動産取得税も1回分で済むと誤解している人がいましたが、不動産取得税は,流通税ですので、登記とは無関係に,A→Bが取得した時点と,B→Cが取得した時点で課税されたので、不動産取得税は1回で済んだわけではありません。ただ,登記簿上はA→Cへ所有権移転登記がなされただけにしか見えないため、A→B→Cと所有権が移転した事実が課税庁(都道府県)に捕捉できず、事実上、中間の取得者Bは不動産取得税を免れることが多く,このため税金がかからないと誤解されることになっていたのです。
(2) 中間省略登記のデメリットは,実際の取引経過が正しく登記に反映されないことでした。我が国の不動産登記には公信力はないので、名義人が無権利者である場合は,買主は所有権を取得できません。そのため,権利取得の過程が登記面に現れない中間省略を許すと,不動産取引を不安定にする弊害があったのです。
3 中間省略登記ができた理由と、できなくした方法
(1)旧法下では中間省略登記が可能であった理由
平成17年3月7日から新しい不動産登記法が施行されましたが,それまでの不動産登記法の下では,中間省略登記が可能でした。
それは、所有権移転登記については,(登記)義務者と(登記)権利者とが所有権移転の原因を特定して共同申請した際、所有権移転の原因が「売買」であっても,誰が売主で誰が買主かという記載は必ずしも必要とはされなかったためです。つまりは、「所有権はA→Cに移転した。Cへの所有権移転の原因は売買だ。」と書くことが可能だったので,中間省略登記ができたのです。
(2)中間省略登記をできなくした方法
平成17年の改正不動産登記法は,権利取得の過程をも公示することにし,「登記原因及びその日付」を登記事項とするとともに,それを証明するものとして登記原因証明情報を申請の際に原則として提供することを要求しました。そしてこの登記原因情報を利害関係人が閲覧することを可能にしているのです(不動産登記法61条・121条)。これによって,中間取得者を省略し,真実の取得過程と相違する中間省略登記は,不動産登記法上,受け入れられないことになったのです。
4 「第三者のためにする契約」と「買主の地位の譲渡契約」
これらは,中間省略登記手続ができなくなった後,宅建業者が考え出したものですが、「第三者のためにする契約」は,民法に規定のある制度(ただし,第三者が出現する前でも第三者のための契約の締結ができるかどうかについては争いがあった。)ではあったのです。
「買主の地位の譲渡契約」は,民法には規定のない制度でしたが、判例で認められていました。
なお、現在国会に提出されている民法改正案は,これらの制度を明文化しております。
「第三者のためにする契約」と「買主の地位の譲渡契約」はともに,契約は二つ以上で,所有権の移転は1度です。したがって、登記も1度になるので、これは中間省略登記ではありません。
5 参照
(第三者のためにする契約)
民法改正案537条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は,その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合においても,その契約は,そのためにその効力を妨げられない。
3 第1項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
【コメント】
改正案では,民法537条2項が新設されています。これは争いのあったところを明文化したもの。これにより,第三者が決まっていない段階で,第三者のための契約の締結が可能になったもの。
(契約上の地位の移転)
民法改正案539条の2 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において,その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは,契約上の地位は,その第三者に移転する。
【コメント】
これは,判例法理で認められていたものを明文化したものです。