コラム
重大な判例変更② 判決要旨
2016年12月24日
平成28年12月19日最高裁判所大法廷決定の要旨は、次のとおりです。
① 遺産は,相続人が数人ある場合,相続開始とともに共同相続人の共有になる。
➁ この遺産共有関係を協議によらずに解消するには家庭裁判所の遺産分割審判による。
③ 遺産分割の審判手続において遺産を分割する基準となる相続分は,特別受益や寄与分を考慮して定められる具体的相続分である。
④ 具体的相続分を基準に遺産を分割する仕組みは,共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものである。
⑤ であるから,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましい。
⑥ また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金のように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在するが,遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点においては,預貯金が現金に近いものとして想起される。
⑦ これまで,遺産分割の手続においては,可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながらも,遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきているのも,⑥の要請によるものである。
⑧ そこで,以上のような観点を踏まえて,改めて預貯金の内容及び性質を子細にみつつ,相続人全員の合意の有無にかかわらずこれを遺産分割の対象とすることができるか否かにつき検討すると,
ア 普通預金債権及び通常貯金債権は,・・・共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し,各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。
イ ・・・定期貯金についても,・・・契約上その分割払戻しが制限されているものと解される。
ウ このように考えると,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
⑨ これに反する判例(最高裁平成16年4月20日第三小法廷判決)その他上記見解と異なる当裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。
⑩以上によれば,本件預貯金が遺産分割の対象とならないとした原審の判断には,裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があり,原決定は破棄を免れない。そして,更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
なお,裁判官岡部喜代子の補足意見,裁判官大谷剛彦,同小貫芳信,同山崎敏充,同小池裕,同木澤克之の補足意見,裁判官鬼丸かおる,同木内道祥の各補足意見,裁判官大橋正春の意見がある。
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