必要は法なき所に法を生む (判例の意義)
最近目にした弁護士の書いた「利得」という用語
ある民事訴訟事件。
兄である甲の訴状には,
⑴ 妹である乙は,母の存命中母の預金口座を管理し預金の出納をしていたが,母の死後甲が調査したところ,乙が母の口座から引き出した現金のうち金○○○万円の使途が不明である。
⑵ この使途不明金は,乙が乙の懐に入れ不当に乙の利得にしたものと考えられる。
⑶ よって,甲は乙に対し,その使途不明金のうち甲の相続分に相当する金額について,返還を求める。
と書かれており,これに対する妹乙の代理人である弁護士の書いた答弁書には,
⑴ 甲が使途不明金だと主張する,預金口座からの出金によって,乙は「利得」したが,その出勤後,乙において,母の介護費用に使ったものであるから,「利得は消滅した」。
よって,甲の請求は理由がない。
と書かれていた。
問題は,乙の弁護士が書いた「利得」と用語の使い方は正しいものかどうかである。
乙の代理人が使った「利得」という言葉は,「預金から引き出していったん乙の手にした現金」の意味であるが,法律用語としての「利得」とは,「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼ」すことである(民法703条)から,乙は,甲が使途不明金だという預金口座から出金した現金は母の介護費用にあてているので,乙の利得になっているものではない。
したがって,乙の代理人弁護士が答弁書にかくべきであった文は,
⑴ 甲が使途不明金だと主張する,預金口座からの出金は,その出金後,乙において,母の介護費用に使ったものであるから,乙の利益になっているものではない。したがって,乙は民法703条の不当利得はしていない。
になるはずであった。
法令用語は,定義どおりの意味に使わないと,誤解や混乱が生ずることになる。