遺産分割調停・審判からの排除決定について
最高裁判所第二小法廷平成28年2月26日判決は,
下記1の事実関係の下で,下記2の争点については,下記3の法律判断をしました。
1 事実関係
⑴ 被相続人Aは,平成18年10月7日に死亡した。
⑵ Aの相続人らは,平成19年6月25日,Aの遺産について,遺産の分割の協議を成立させた(その時点の遺産の評価額は総額17億8670万3828円)。
⑶ Bは平成21年10月,Aの子であることの認知を求める訴えを提起し,その後それを認める判決が言い渡され,同判決は平成22年11月に確定した。
⑷ Bは,平成23年5月6日,⑵で遺産分割をした相続人らに対し,民法910条に基づく価額の支払を請求し(その時点で遺産は総額7億9239万5924円),
⑸ 平成26年2月3日に,民法910条に基づく価額の支払を請求訴訟を提起した(第1審の口頭弁論終結日の時点において,遺産総額は10億0696万8471円)。
【参照】
民法第910条
相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。
2 争点
(1)Bが民法910条に基づく価額の支払を請求をした場合の,遺産の価額算定の基準時はいつか?また,(2)遅延損害金が発生するのはいつからか?
3 判例
(1)遺産の価額算定の基準時について
相続の開始後認知によって相続人となった者が他の共同相続人に対して民法910条に基づき価額の支払を請求する場合における遺産の価額算定の基準時は,価額の支払を請求した時であると解するのが相当である。
なぜならば,民法910条の規定は,相続の開始後に認知された者が遺産の分割を請求しようとする場合において,他の共同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときには,当該分割等の効力を維持しつつ認知された者に価額の支払請求を認めることによって,他の共同相続人と認知された者との利害の調整を図るものであるところ,認知された者が価額の支払を請求した時点までの遺産の価額の変動を他の共同相続人が支払うべき金額に反映させるとともに,その時点で直ちに当該金額を算定し得るものとすることが,当事者間の衡平の観点から相当であるといえるからである。
そうすると,本件の価額の支払請求に係る遺産の価額算定の基準時は,上告人が被上告人らに対して価額の支払を請求した日である平成23年5月6日ということになる。
(2)遅延損害金発生時について
また,民法910条に基づく他の共同相続人の価額の支払債務は,期限の定めのない債務であって,履行の請求を受けた時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
そうすると、本件の価額の支払請求に係る遅延損害金の起算日は,上告人が被上告人らに対して価額の支払を請求した日の翌日である平成23年5月7日ということになる。
と判示しました。
4 それぞれの法律効果と遺産評価時点
⑴ 遺産分割をする場合の,遺産の評価時点は,相続開始時です。
⑵ 持戻しをする場合の対象になる生前贈与財産の評価も,相続開始時でなされます。
⑶ ところが,相続開始後に認知された子(相続人)が,その時点で他の相続人間で遺産分割がなされていた場合は,その後民法910条に基づき価額の請求をするときの遺産の評価は請求した時が遺産評価の基準日になります(前記判例による)。
5 前記判例事案では,
もし,認知を受けた子が認知を受けた時点で,まだ遺産分割がなされていなかった場合は,その子の具体的相続分は,遺産の評価額が17億8670万3828円であることを前提に計算されますが,この件は,認知を受けた時点で他の相続人間で遺産分割がなされていたため,価額の請求をした時点の評価7億9239万5924円で算出された具体的相続分が請求できる価額になります。
一見しますと,ずいぶん損をしたように見えますが,そうではありません。
仮に,認知を受けた時点で,他の相続人間で遺産分割ができていなかった場合,認知を受けた子は,遺産分割に与れますが,それによって得られる遺産は相続開始時の評価額を基準にした具体的相続分に見合う遺産です。しかし,その遺産は,その後評価額が下がっているのですから,結果において変わらないことになるのです。