民法雑学 4 公立病院における診療債権、水道料金債権など自治体債権の消滅時効期間
Q
A社が原告となり,B社を被告として,訴訟を起こしたが,A社が敗訴した場合で,その訴訟が不当訴訟となって,B社からA社に対する弁護士費用等の損害賠償請求をすることができる要件事実は何か?
A
最高裁昭和63年1月26日判決は,
「法的紛争の当事者が当該紛争の終局的解決を裁判所に求めうることは、法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから、裁判を受ける権利は最大限尊重されなければならず、不法行為の成否を判断するにあたつては、いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう慎重な配慮が必要とされることは当然のことである。したがつて、法的紛争の解決を求めて訴えを提起することは、原則として正当な行為であり、提訴者が敗訴の確定判決を受けたことのみによつて、直ちに当該訴えの提起をもつて違法ということはできないというべきである。一方、訴えを提起された者にとつては、応訴を強いられ、そのために、弁護士に訴訟追行を委任しその費用を支払うなど、経済的、精神的負担を余儀なくされるのであるから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は、違法とされることのあるのもやむをえないところである。
以上の観点からすると、民事訴訟を提起した者が敗訴の確定判決を受けた場合において、右訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権利等」という。)が事実的、法律的根拠を欠くものであるうえ、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である。けだし、訴えを提起する際に、提訴者において、自己の主張しようとする権利等の事実的、法律的根拠につき、高度の調査、検討が要請されるものと解するならば、裁判制度の自由な利用が著しく阻害される結果となり妥当でないからである。」と判示していますので,
不当訴訟を理由とする損害賠償請求権の発生要件事実は,
① A社から民事訴訟を提起されたが,勝訴し,勝訴判決が確定したこと。
➁ 当該訴訟におけるA社の主張が,事実的、法律的根拠を欠くものであったこと。
③ A社は➁の事実を知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知りえたといえるのにあえて訴えを提起したこと等,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められること。
ということになります。