遺産分割⑬ 持戻し計算がなされる特別受益の範囲
①遺産の帰属性に争いが生じると → 遺産確認訴訟の判決が出,確定するまで遺産分割をしないことにする。調停委員にも家事審判官にも遺産の帰属性については判断権がないため(参考判例1参照)。
②生前贈与財産の主張があると → 家事審判官が相続人に主張立証を促し,判断をする(参考判例2参照)。
③生前贈与の持戻し免除の意思表示があったという言い分があれば → 家事審判官が判断する。
④財産の評価の争いが生じれば → 鑑定の申請をさせ,鑑定が出るまでは遺産分割はしないことにする。
⑤寄与分の申立てがあれば → 家事審判官が判断する。
⑥みなし相続財産算出計算は → 調停委員がする。
⑦⑥の乗ずる相続分の確認は → 調停委員がする。
⑧仮の相続分の計算も→ 調停委員がする。
⑨遺贈の確定 → 家事審判官がする(参考判例2参照)。
⑩持戻し免除の有無の確定 → 家事審判官がする。
⑪具体的相続分算出計算 → 調停委員がする(参考判例3参照)。
⑫遺産分割対象財産の確認 → 調停委員がする(参考判例4参照)。
⑬遺産分割方法の確定 → 調停委員から案を提示する。
⑭それ以外の付随問題については,話合いをしないことにする。
付随問題も遺産分割の調停で解決してほしいという要請に対しては,まず遺産分割をした後で,別件として調停を起こすなり,訴訟を起こすよう説示する。
【参考判例】
1 特定の財産が遺産かどうかの判断は,訴訟で判断すべきこと。したがって,家事審判官には権限がないこと
最判平元.3.28は、①遺産確認の訴えは、事実の確認を求めるものではなく、当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであるから、確認訴訟の対象になりうる。また、②その訴訟での原告勝訴の確定判決は、当該財産が遺産分割の対象である財産であることを既判力をもって確定し、これに続く遺産分割審判の手続等において、当該財産の遺産帰属性を争うことを許さないとすることによって共同相続人間の紛争の解決に資することができる点に適法性がある、③ただ,この訴訟は,全相続人を原告又は被告とする訴訟(固有必要的訴訟)であることが要件になります。
2 特別受益であるかどうかの判断は,家事審判官がなすべきこと
最判平7.3.7は、特定の財産が、特別受益財産であるとしても、そのことで当然に特別受益財産を相続財産に持ち戻すべき義務が生ずるものでもない(筆者注:持戻し免除の意思表示があれば持戻し計算は出来なくなる)等の理由で、ある財産が特別受益財産に当たることの確認を求める訴えは、現在の権利又は法律関係の確認を求めるものということはできない(確認の利益はない)旨判示して、そのような訴訟は不適法であると判示しました。
3 具体的相続分の算定も家事審判官がなすべきこと
最判平12.2.24は、具体的相続分は、遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものであって,遺産の分割等の前提問題として、家庭裁判所で、審理判断される事項であと判示しています。
4 預貯金が遺産分割の対象ではないことの確認も家事審判官がすべきこと
高松高判平18.6.16は、①可分債権は法律上当然に分割され、各共同相続人は、その相続分に応じた金額を単独で相続している。➁しかしながら、共同相続人全員の明示又は黙示の合意がある場合には、可分債権を遺産分割の対象とすることは可能である。③共同相続人全員が、可分債権を遺産分割の対象とすることに合意しているか否かの判断は、家庭裁判所が審判手続の中で、遺産の分割の前提問題としてなすことである。④したがって、可分債権が遺産分割の対象財産ではないことの確認を求めることは、共同相続人間での③の合意が存在しないという事実の確認を求めるものに帰着し、実体的な権利関係の確認を求めるものとはいえないし、そのような事実の確認が遺産分割をめぐる紛争の抜本的解決に資するものということもできない。⑤したがって,預貯金が遺産分割の対象財産ではないことの確認訴訟は認められないと判示しています。