遺産分割調停・審判からの排除決定について
1 調停申立てから調停成立までに10年かかった事件
(1)事件
被相続人は会社経営者で,平成14年に死亡し,相続が開始しました。
相続人は,妻と長男と長女。妻と長女は利害が一致。結局,妻・長女対長男という対立構造の調停事件。
この事件は,次のような経過を経て,遺産分割の調停が成立しましたが,最初の遺産分割の調停申立てからいうと,満10年経って解決したものです。
(2)遺産分割調停事件と遺産確認訴訟の経過
平成17年に調停(一回目)の申立て
平成22年に遺産確認訴訟の提起
平成23年に調停が不調になる。
平成24年遺産確認訴訟で一審判決
平成25年同事件で二審判決
平成26年同事件で三審判決
平成26年遺産分割の調停(二回目)の申立て
平成27年遺産分割の調停成立
(3)問題とその原因
問題は,一回目の調停事件が申立時から不調になるまで5年間もかかったことです。 長男側にも,妻・長女側にも,弁護士が代理人になっているのに,何故そのように時間がかかったのか?
時間がかかった大きな原因の一つは,遺産分割とは関係のない要求が,一方の当事者から出され,他方当事者が,その要求に沿う話し合いを続けたことでした。
2 裁判所のみごとな調停指揮
平成26年,遺産確認訴訟が確定したことにより,遺産の範囲に争いがなくなったことから,妻と長女が長男を相手方として,二回目の調停の申立てをしました。
私の事務所は,この時から,この事件の代理人になったのですが,過去の調停事件が長引いた原因の一つに,前述のような,遺産分割とは関係のない一方当事者の要求を俎上に乗せた話合いがあったことから,それは一切しない。純粋に遺産分割の対象になる財産についてのみ話合う。という姿勢をとったことが,事件の早期解決(それでも1年間)に至ったように思えます。
私は,二回目の調停事件では,裁判所に対して,調停委員による調停ではなく,裁判官が直接関与する調停(不調になればすぐ審判してもらえるように)を要請しました。裁判所もこれに応じ,遺産分割の対象になる財産とそうでない財産を峻別する姿勢と明らかにされ,主張の整理を進められました。そして,その主張整理が終わった段階で,裁判所から,遺産は全部妻と長女が取得し,妻と長女から代償金として一定の金額を長男に支払うという代償分割案が提案されたのですが,この案には,当事者全員が納得し,即日,調停が成立したのです。
裁判所のした主張整理と調停の進めからは,みごとというほかありませんでした。その効果は抜群というべきところです。
3 不毛の時間の空費
平成26年に申立てた二回目の調停事件の中でみられた長男側の主張や要求の例を挙げてみますと,
・長男と母親とが共有している財産の共有物分割をしてほしい。
・長女が自宅を建てた建築資金はいくらかかったのか?その資金はどう調達したのか?教えてほしい。
・会社の物置にある中古のオートバイの所有者は誰か?
・長女が使用している自動車の登録番号を教えろ。
等々ですが,
調停の結果,1000万円単位の多額の代償金を受領した長男も,その結果に照らして考えた場合,これらの主張や要求がいかに無意味な,また,間の抜けた要求かが分かるものと思われます。
このような主張や要求の扱い如何が,調停事件の解決を,適切にするか,だらだらと遅らせるかの分水嶺になるのです。
この事件を担当された,若い女性の裁判官のような裁判官が増えることが,期待されるところです。