相続税のお話し 7 代償分割に潜む落とし穴
ここで,A氏から,
Q 私が遺言書の一項で,「これまで妻や子に贈与した財産,妻や子の名義にした財産はすべて,その贈与を受けた者や名義人のものであり,これら財産については持戻しを免除する。」と書いた内容は,遺言書作成後にする贈与についても,持戻し免除の効果があるのですか?
との質問を受けました。
A氏の質問は,遺言書一項に書いた「これまで・・・贈与した・・」というのは,遺言書を書いた時点での「それまで」にした生前贈与等のことをいうのであって,遺言書を書いた時点の「後でした贈与」は含まれていない,と解されることを心配した質問でした。
たしかに,遺言書の解釈は,遺言者が亡くなった後の解釈であり,そのときは遺言書を書いた遺言者に,お墓の中から出てきてもらって,意思を確認するすべはないため,遺言書の解釈が,遺言書の文言のみからなされると,A氏が心配したような解釈になるリスクがあり,その場合は,A氏がその妻に自宅を生前贈与しても,それについては持戻し免除はなかったとされてしまいます。
そこで,私は,では遺言書作成後の生前贈与についても,持戻し免除をする遺言書にしましょう,と言って,遺言書一項を,次のように書き換えました。
(旧遺言条項)
一 これまで妻や子に贈与した財産,妻や子の名義にした財産はすべて,その贈与を受けた者や名義人のものであり,これら財産については持戻しを免除する。
(新遺言条項)
一 これまで妻や子に贈与した財産及び妻や子の名義にした財産並びに今後する贈与財産はすべて,その贈与を受けた者や名義人のものであり,これら財産については持戻しを免除する。
これにて,A氏が満足するに至ったことはいうまでもありません。
なお,遺言者が相続人になる立場の者(「推定相続人」といいます。)にお金を貸しているような場合,あるいは,遺言者が特定の相続人にお金を貸しているというようなトラブルが,遺産分割の際に起こる懸念がある場合は,一項の遺言事項を,
一 これまで妻や子に贈与した財産及び妻や子の名義にした財産並びに今後する贈与財産はすべて,その贈与を受けた者や名義人のものであり,これら財産については持戻しを免除する。また,私が妻や子に対し債権を有している場合は,そのすべてを放棄し,これについても持戻しを免除する。
と書くのがよいでしょう。