(補説) 土地と所有権と境界と公図
5 境界確定協議書
⑴ 境界(筆境)を定める効果はない
境界は,国の秩序に関するものですから,隣地の所有者間の合意で,境界を定めたり変更することはできません(最高裁判所昭和31.12。28判決)。
したがって,隣地の所有者との間に「境界合意書」や「境界確定協議書」を取り交わして、境界を決めたとしても、それが法的な意味での境界と一致しないときは、この「境界合意書」は,境界(筆境)を定めるものとしての効果はありません。
⑵ 真の境界と認定されやすい
しかしながら,「境界合意書」や「境界確定協議書」で定めた“合意による境界”がある場合は,境界確定訴訟が起こされたときで真の境界が判定できないときは,その合意による境界を境界として確定されることが多くなると思われます。
境界確定訴訟は,境界の確認をする裁判ではなく,裁判所において真の境界が分からない場合でも,裁判所が最良と思う位置を境界と定めなければならない裁判ですので,隣地所有間との合意で定めた境界があるのなら,その境界を真の境界として確定させようという心理が裁判所に働くからです。
⑶ 境界(所有権境)と認定される場合もある。
大阪高裁昭和38.11.29判決は,合意で決めた境界は,特段の意思表示がない限り、筆境ではないとしても所有権境を定めたもの,したがって,合意による境界線と真の境界線との間の土地は,一方から他方へ譲渡される暗黙の合意がなされているものと解されると判示していますので,境界確定協議書は,隣地との所有権境を定めたものと認められる場合もあります。
⑷ 簡易で境界紛争を未然に防止する最良の手段
「境界確定協議書」を取り交わすことは,現在のところ,簡易で境界紛争を未然に防止する方法としては,最良の方法といってよいでしょう。
⑸ 土地売買契約では,これの提供を求められる場合がある
したがって,土地の売買契約を結ぶ場合は,買主は売主に対し,隣地所有者との間に「境界確定協議書」を作成し提供することを求めることが多いのです。
⑹ トラブル多い
売買契約書では,通常,売主に,隣地所有者との間に「境界確定協議書」を作成し買主に提供する義務を課しているものは少ないように思いますが,そうすることが当然であると考える買主もいますので,売買契約書では,売主の境界明示義務の内容を具体的に書いておかないと,トラブルになるのです。
6 境界標について
境界標とは、不動産登記法施行細則に書かれた言葉ですが、意味は、それだけでは目に見えない境界につけられた目印のことです。境界標識という言い方もされます。
大きな山林の境界などでは、自然の尾根、沢、石塚などの地形、地物が境界標あるいは境界標識とされる場合もありますが、宅地などは、家の敷石、杭などの人工的に設置された境界標識が用いられます。
なお,地積の変更や分筆登記をする際に作られる地積測量図に記載される境界標は、不動産登記事務取扱手続準則で、永続性のある石杭または金属標等の標識であることが要求されております。
一般的には、コンクリート杭、鉄鋲など①不動性(容易に動かない物),②顕著性・明瞭性(境界標識であることが一見して分かる物),及び③耐久性(長い年月風雨に絶え得る物)のあるものが求められているのです。
境界標があるから当然それが境界に設置されたものであると認められるわけではありません。
しかし境界標の位置が、境界であると事実上推定される効果はあります。
不動産登記法施行細則は、地積の変更、分筆登記をする場合は、地積測量図を作ることを求めていますが、その際、境界標があるときは、地積測量図に記載しなければならないことになっていますので,それだけ境界標が事実上,境界確認には重要な意味を持っているということになります。