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不動産 定期建物賃貸借契約終了後長期にわたる継続使用問題

菊池捷男

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テーマ:不動産法(賃貸借編)

Q 当社は,期間を3年間と定めた定期建物賃貸借契約を結び,期間が満了した後,賃貸人から定期建物賃貸借契約の終了通知を受けることなく,10年以上も賃料を支払ってきたのですが,先日,賃貸人から定期建物賃貸借契約終了通知を受け,当社に6か月後に,建物から退店するよう請求されました。退店しなければならないのですか?

A 貴社の場合,定期建物賃貸借契約の終了後,黙示による期間の定めの無い普通建物賃貸借契約が結ばれたとの認定がなされる可能性はあると思います。

1 裁判例の紹介
 東京地裁平成21年3月19日判決が,この問題を分かりやすく解説していますので,紹介します。以下の文は同判決文からの引用です。
(1)定期建物賃貸借契約終了通知制度の趣旨について
ア ・・・借地借家法38条所定の定期建物賃貸借契約においては、・・・契約は期間満了によって終了する。・・・
イ 他方、期間の満了によって直ちに賃借人が建物を明け渡さなければならないとすると、賃借人が期間を失念していたような場合には、代替する借家を見つけていないこともあり得るので、賃借人にとって酷な事態になりかねない。そこで、借地借家法38条4項は、契約期間が1年以上である場合には、期間満了の1年前から6か月前までの間に、契約が終了する旨の通知を賃貸人に義務づけ、賃借人に契約終了に関する注意を喚起し、代替物件を探すためなどに必要な期間を確保することとした。そして、通知期間内に通知を怠った場合には、これにより賃借人が不測の損害を被ることにもなりかねないので、賃借人を保護する観点から、賃貸人が通知期間後の通知をしてから6か月間賃貸借の終了を対抗することができないものとした。ただし、これは一種の制裁として賃借人による建物の占有が適法化されるものであるから、賃借人の側から契約終了を認めて契約関係から離脱することは自由にできるものと解される。
 なお、定期建物賃貸借契約でも契約期間が1年未満の場合には、期間満了は比較的近い将来のことで、賃借人としても契約終了は常に念頭に置くべきであり、あらためて注意喚起しなければ期間満了を失念するという可能性は小さい。そのため、賃貸人に通知を義務づける必要性は乏しいと考えられることから、この場合には、賃貸人が契約終了通知をしなくても、期間満了後は賃貸借契約の終了を賃借人に対抗することができる。

(2)期間満了までに終了通知が行われなかった場合について(原則)
 ・・・終了通知は,賃貸人の権利行使要件であるが,・・・通知期間経過後の通知については、いつまでに行わなければならないかについての限定はない・・・・し、法が賃貸人に終了通知を行うことを義務づけた趣旨は、上記のとおり、賃借人に契約終了に関する注意を喚起するとともに、代替物件を探すためなどに必要な期間を確保することにあると解される・・・賃貸人が期間満了前の終了通知を怠ったことに対する制裁としては、同通知から6か月間は契約終了を賃借人に対して対抗することができないことが定められている。この賃貸人への制裁の反面として、賃借人においては、この間建物の明渡しが猶予されるとの法的効果が与えられ、その一方で契約終了を認めて契約関係から離脱することもできるとされたのであって、法は、かかる制裁と法的効果を定めることで、賃貸人・賃借人間の法的均衡を図っているものと解される。

(3)期間満了後長期間にわたって建物が継続使用されている場合の問題(例外)
・・・期間満了後、賃貸人から何らの通知ないし異議もないまま、賃借人が建物を長期にわたって使用継続しているような場合には、黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解し、あるいは法の潜脱の趣旨が明らかな場合には、一般条項を適用するなどの方法で、統一に対応するのが相当というべきである。

2 貴社に相談に対する回答
 貴社の場合,定期建物賃貸借契約が期間満了によって終了したにもかかわらず,10年以上もの長い間,建物を使用継続しているようのですが,この間,賃料の改定をしながら定期建物賃貸借契約の再契約という形をとらないなどの事情
があれば,黙示的に新たな普通建物賃貸借契約が締結されたものと解される余地はあるだろうと思われます。
 ただし,そのような判断をする場合の要件となる事実が明確になるまでにはもっと多くの裁判例の集積が待たれます。

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菊池捷男(弁護士)

弁護士法人菊池綜合法律事務所

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