32 誤解するなかれ,建築条件付き特約を
売買契約を結ぶことは強制されなくとも,あなたが相手方の誠意を裏切り,不誠実な態度をとると,厳しく制裁を受けますよ。人は,誠実に生きなくちゃネ。
(1)契約締結上の過失論
不動産の売買契約が成立しなかった場合,それが一方当事者の不誠実な態度が原因であったとしても,他方当事者は,不誠実な当事者に対し,契約責任を問うことはできません。
しかしながら,他方当事者が,契約が締結されるものと信じ,契約が締結されることを前提に,先行的に金銭の支出をしている等,それなりの負担を負っている場合は,不誠実な一方当事者に対し,金銭でもって,その損害を償わせるのでないと公平とはいえません。ここに生まれたのが「契約締結上の過失論」です。
(2)裁判例
⑴ 最高裁昭和59年9月18日判決
同判決は,マンション分譲業者甲が,歯医者乙との間に,マンションの一室の売買契約の交渉中,乙の希望する電気容量を確保するため,マンションの受水槽室を変電室とする設計変更をし,電力会社との間で電気容量の変更を行う手続を行うこと及びそれには約500万円かかることを乙に告げ,工事を始めたが,乙はその工事の中止を求めることはせず,その後も右設計変更を容認する態度に出ていたが,売買契約締結直前になって,売買契約を結ばないと言い出した事件で,歯科医乙の契約締結上の過失を認め,甲に生じた損害に対する賠償を命じました(損害費目の詳細は不明ですが,電気容量の変更工事費用を認めたものと思われます。)。
⑵ 福岡高裁平成5年6月30日判決
同判決は,売主・買主間で不動産売買契約交渉がなされ,①売買代金を決め,所有権登記を行う日等売買契約の重要な部分について合意ができ,②売主,買主とも所有権移転登記申請書に記名押印をし,かつ,③買主が銀行から売買代金の融資を受ける段階まで至った時期に,売主が一方的に売買契約書への署名を拒否したため,売買契約の成立に至らなかった事案で,売主の契約締結上の過失責任を認め,買主が融資を受けたことにより生じた利息や手数料,それに司法書士に支払った登記手数料の損害の賠償を命じました。
なお,契約締結上の過失責任は,不動産の売買契約に限るものではありません。
大阪地裁平成11年1月29日判決は,広告会社甲が,注文者乙との間に,パンフレットの制作,広告宣伝などの契約交渉をしている途中で,乙の同意をえて,一部を下請に出したが,突然乙から一方的に交渉を打ち切られたという事件で,下請に支払ったパンフレットの制作費等について,甲の乙に対する損害賠償請求を認めております。
(3)損害の範囲
契約締結上の過失責任による損害賠償の範囲は,実費の損害賠償(信頼利益の賠償)に限られます。
契約の履行がなされた場合に得られる利益(土地の開発分譲などによる逸失利益)は,賠償の対象にはなりません。