自治体のする契約 2 私法上の契約と公法上の契約
Q 本市では,学校給食の調理場で働く人などを臨時職員として採用し,5年以上にわたり更新を繰り返してきていますが,この場合,本市は,当該職員を任期の定めのない常勤職員として任用等しなければならないのでしょうか?また,他の臨時職員の場合はどうでしょうか?本市の条例上は何の規定も置いていませんが。
A 労働契約法22条1項は,地方公務員については,労働契約法の適用がない旨を明記していますので,同法18条の適用は受けません。他に,法律上,臨時職員を任期の定めのない職員として任用することを義務づける規定は存在しませんので,任期の定めのない常勤職員として任用等しなければならないことはありません。
理由
(1)任期のある職員の採用形態
任期のある職員として採用する場合,①任期付公務員,②特別職非常勤職員,③一般職非常勤職員,及び④臨時的任用職員の4種があります。御質問は,特別職ということはありませんので,その他の3種類の形態について,説明します。
(2)労働契約法の適用関係
労働契約法第18条では,有期労働契約による労働期間が5年を超えた場合には,労働者は期間の定めのない労働契約の締結を申し込むことができます。この場合において,使用者は,当該労働契約の申込みを承諾したものと擬制されますが,前述のように,労働契約法22条1項は,地方公務員については,労働契約法の適用がない旨を明記しています。これは,地方公務員の採用は,相手方の同意を要する行政行為(任用)と解されていて,労働契約ではないと考えられているからです。
したがいまして,労働契約法により任期の定めのない職員として任用する義務が発生することはありません。
(2)任期付法
次に,①の任期付公務員の場合について検討します。
任期付職員の採用等は,「地方公共団体の一般職の任期付職員の採用に関する法律」により規定されています。この法律により,各地方自治体の政策判断に基づき複数年の任期を保障した任期付職員を採用することができるようになります。この法律では5年以内の任期(短時間勤務職員の場合には3年)を定めることや,採用した日から5年(短時間勤務職員の場合には3年)を超えない範囲内での更新が可能であることが定められていますが,更新などによって任期の定めのない職員に転換される等の規定は設けられていません。逆に,更新によっても任用期間は5年(又は3年)が上限とされていることにご注意ください(同法7条)。
任期の定めのある職員の採用は,例外的なものであるから,任期の定めのない職員への任用関係の変更などを定めることはしていなのです(民間企業については有期雇用契約が常態化して雇い止めなどの社会的問題がありました)。
したがいまして,任期付公務員が任期の定めのない公務員になることを求めることはできません。
(3)一般職非常勤職員・臨時的任用職員
このほかの③一般職非常勤職員や④臨時的任用職員については,地方公務員法が根拠となります。
まず,臨時的任用職員を採用できるのは,緊急の場合や臨時の職に関する場合などに限られています(地方公務員法22条2項)。このため,御相談の職員が臨時的任用職員とは考えにくいところです(ただし,以下の説明は臨時的任用職員にもあてはまります)。また,一般職非常勤職員については,地方公務員法17条により,職員の職に欠員を生じた場合に,採用の方法により職員を任命できるとされていることが根拠とされます。臨時的任用職員ほどではありませんが,こちらも臨時的・補助的な性格を有するものです(総行公第59号別紙4頁)。
したがいまして,もともと長期間にわたり繰り返し任用することは想定されていません。ただ,現実の問題として,再度の任用が繰り返されることはあり得ます。その場合でも,再度の任用は成績主義や平等取扱い原則により,(その人がふさわしかったので)新たな職に改めて任用したという建前になります。このことの帰結として,繰り返しの任用がなされても,再度任用の保障などの既得権が発生するものではありません(同別紙10頁)。あくまで,成績主義・平等取扱い原則に従うことになるわけです。
法律に再度の任用を義務づける規定がないことは勿論,行政解釈としても再度の任用を義務づける趣旨は述べられていないのです。ただし,この解釈は総務省の解釈ですので司法判断が同じになる保障はないことを付記しておきます。
なお,再度の任用を行わない場合には,事前に十分な説明を行ったり,他に応募可能な求人を紹介する等配慮をすることが望ましいことはいうまでもありません(同別紙10頁)。
(4)まとめ
以上のとおり,貴市の「臨時職員」(法的根拠がはっきりしませんので,上記①,③及び④を含む概念として用いています。)を任期の定めのない常勤職員として処遇することを義務づける法規はありません。
ただし,先ほども述べたとおり,この問題に対する明確な司法判断は示されていません。裁判所(司法)が信義則などを根拠とした救済をすることもあり得ないとは言えませんので,臨時職員に対しては,あくまでも任期のある職員であることを明確にするとともに,再度の任用に際しては手続を厳格に行い,職員に再度の任用に対する期待を抱かせないようにした方がよいでしょう。