コラム
不動産 賃借人の破産管財人が原状回復をしてくれない場合
2015年4月17日 公開 / 2016年4月12日更新
Q 甲社が建物を乙社に賃貸中,乙社が破産しました。乙社の破産管財人から賃貸借契約を解除するという内容証明郵便が送られてきましたので,甲社はそれを認め,乙社の破産管財人に現状回復をして,建物を返還するよう請求したのですが,破産管財人は,費用がないという理由で原状回復も建物の返還もしてくれません。そこで,甲社の方から破産管財人に,敷金を使えば原状回復ができるといってあげたのですが,破産管財人は,敷金には銀行が質権をもっているので,破産管財人一存で敷金を使ってよいとは言えない,という始末です。
この場合,甲社は,預かっている敷金から原状回復費用を支出して建物を取り戻すことができますか?
A できます。
最高裁判所平成18年12月21日判決は,「(破産)宣告後賃料等のうち原状回復費用については,賃貸人において原状回復を行ってその費用を返還すべき敷金から控除することも広く行われているものであって,敷金返還請求権に質権の設定を受けた質権者も,これを予定した上で担保価値を把握しているものと考えられるから,敷金をもってその支払に当てることも,正当な理由があるものとして許されると解すべきである。」と判示しているからです。
なお,御相談の件での,賃借人の破産管財人の態度はよくありません。
前記最高裁判決は,「建物賃貸借における敷金返還請求権は,賃貸借終了後,建物の明渡しがされた時において,敷金からそれまでに生じた賃料債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を控除し,なお残額があることを条件として,その残額につき発生する条件付債権である(最高裁判所平成18年12月21日判決を引用)」と判示した上で,「このような条件付債権としての敷金返還請求権が質権の目的とされた場合において,質権設定者である賃借人が,正当な理由に基づくことなく賃貸人に対し未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害することは,質権者に対する上記義務に違反するものというべきである。」と判示していますが,賃借人が何もしないで,賃借建物を返還しないでおくと,敷金は減額し続けることになり,これは銀行の質権を毀損することになります。賃借人の破産管財人は,賃借人である「質権設定者が質権者に対して負う上記義務を承継すると解される。」(「」内は同判決文の引用)のですから,御相談の件で,破産管財人が建物につき原状回復をしないことで,敷金返還請求額が減額していくことは破産管財人の責任になるからです。
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