相続の開始後に認知された者の価額の支払請求権に関する判例紹介)
遺産分割をする際,持戻し計算される特別受益は,生前贈与と遺贈(「相続させる」遺言による相続を含む。)になりますが,このうちの生前贈与は,①婚姻又は養子縁組のための贈与及び➁生計の資本としての贈与です(民法903条)。
特別受益 = ①遺贈 + ➁生前贈与
生前贈与 = ①婚姻又は養子縁組のための贈与 +➁生計の資本としての贈与
1,婚姻又は養子縁組のための贈与
持参金,支度金は,ある程度のまとまりのある金額の場合に限られています。
結納金や結婚式費用は,婚姻のための贈与とはされていません。
2,生計の資本としての贈与
不動産,不動産購入のための現金,貸金の免除,保証債務の代位弁済をしながら求償権を行使しなかった場合(高松家裁丸亀支部平成3.11.19審判)などがあります。
3,生命保険金
被相続人が,被相続人を被保険者,相続人の一人甲を受取人として,保険契約を結び,保険料を支払い,相続開始により相続人甲が生命保険金を受領した場合,甲が受領した保険金は,相続財産にも特別受益にもなりません。しかしながら,その結果,甲と他の共同相続人との間に不公平が生じ,その不公平が,民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほど著しいものであるときは,特別受益となります(最高裁判所平成16.10.29)。この判決事案では,全相続財産が約7000万円であるのに対し,生命保険金が約800万円であった事件ですが,この程度の不公平では,生命保険金は特別受益にはならないとされました。その後,この判例の趣旨に従い,東京高裁平成17.10.27決定は,相続財産の総額が1億円余り,生命保険金はほぼ同額のケースで,生命保険金は特別受益になると判示し,また,名古屋高裁平成18.3.27判決は,相続財産が6700万円弱のところ,生命保険金が5000万円強のケースでも,生命保険金を特別受益になると認定しました。
死亡の前に現金を贈与した場合は,その現金は特別受益になるのに,その現金を一時払いの保険料にあてて保険会社に支払っておけば,それによって受け取る生命保険金は特別受益にならない,というのでは,割り切れないものがあると思われます。それほどまでして,生前に,現金に代わる生命保険金を,持戻ししないですむように,相続人の一人甲に取得させたいと思うときは,直接現金を贈与して,それの持戻しを免除する意思表示をしておけば,目的を達成することができます。
その文章は「私は,金1億円をいついつ長男太郎に贈与した。その贈与については持戻しを免除する。」と書けばよいのです。