裁判官にも勘違いはある
使用貸借契約による使用借権という権利がある。無償で他人の物を使用する権利だ。親が息子に,岳父が娘婿に,わしの土地に家を建てて住みゃええがな,などと言って,土地を無償で貸す,などは,人情のしからしむるところ,日常珍しいことではない。これによる使用権が使用借権なのだ。
一方で,賃借権という権利がある。賃料を支払って物を使用する権利である。これは身内の間の情義に基づく使用貸借と違って,他人間で結ばれることが多く,これまた世間には実に多い現象だ。
使用借権は,物を無償で使用させてもらっているだけ,権利は弱い。一代限りが原則だ。借主が死亡したときは、使用貸借も終了することになっているのだ(民法599条)。
とはいうものの,土地の使用借権を得て,家を建てたが,まもなくして借主が亡くなったというような場合,残された遺族の涙がまだ乾かないところへ,一代限りの規定(民法599条)を盾に,家を壊して土地を返せ~と言われた日があっては,そりゃあ大変だ。
で,そんなことのないように,法(民法597条2項)は,借りた物を返す時期を定めていた場合は,その時が来た時に,また,借りた物を返す時期を定めていなかった場合は,「目的に従い使用及び収益を終わった時」又は「その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過した時」に返せばよいと定めているのだ。だから,借りた人が亡くなったからといって,すぐに返さなければならないということにはならないのだ。
では,いったい,その返す時期の目安は?となると,ここに最高裁判所平成11.2.25判決がある。同判決は,使用貸借契約後38年8か月が経過していたこと,貸主と借主の人的つながりが著しく変化している(親の代が子の代に変われば人情も薄くなるということだ)ことなどを理由に,もう返しなさいと判決をした。
最高裁判所昭和59.11.22判決は,建物が居住を目的とするものであっても,建物の使用を開始してから約40年もの期間が経過したのであれば,使用収益をするのに足りる期間は経過したと解するのが相当であるぞよ,として,土地の返還請求を認めた。
だから,土地の使用借権の目安は,家を建てた後40年と考えて間違いはないであろう。
賃借権は,いうまでもなく,強い権利だ。期間が満了しても契約は更新するのが原則だ。
お金を支払っているだけ,威張っているのだろう。
ところで,お金を支払っているから,賃借権があるとは限らないことに注意が要る。固定資産税程度の支払では,賃借権とは認められないということだ。
ただで使わせてやるが,固定資産税くらいを支払ってくれよな,と言って貸す場合もある。これは,やはり,あくまで情義,人情に基づく貸借なのだから,使用貸借になるということだ。
こう考えてみると,これまでは貸主が固定資産税を負担して,借主に土地を無償で貸してあげてきた。しかし,貸主も借主も代が代わった。土地はまだ当分返してもらえない。というようなケースでは,せめて固定資産税程度は借主に負担してもらいたいと考えるのが人情だろう。このような請求ははたしてできるのか?これは別のテーマだ。