人は能力に応じて働き働きに応じて糧を得よ (職能給)
これは,クリーンハンドの原則といわれる諺である,
離婚事件でいうと,自ら不貞行為を働き,家庭を壊した者は,離婚請求を認めない,という原則になる。
ただしかし,①別居期間が長期間になり,夫婦関係が破綻しておれば,➁夫婦間に未成熟子はいなくて,③相手方配偶者を精神的・経済的に極めて過酷な状態に置くことがない場合にまで,離婚請求を認めないというのでは,かえって不都合だとの,冷静な考えも出,この三要件があれば離婚請求を認めるとの判例(最高裁判所昭和62年9月2日判決)が出た。
浮気男,いや,浮気女か?には朗報かもしれないが,なかなかにこの要件は厳しい。
ここから,誤解が生じている。①の要件を満たした者は,皆,離婚請求ができるとの誤解だ。長期間の別居男も別居女も,➁と③の要件を満たさないと,不貞を働いた有責配偶者からの離婚請求はできないのだ。相手方配偶者が重篤の病気であるとか,扶養を必要とする子がいるなどの事情があるところでは,期間は10年経っていても離婚請求は認められないのだ。
ところで,①の別居期間は何年くらい続けば離婚が認められるのか,については,世間の関心は高いが,裁判所は,一応10年間別居に及べば①の要件は満たしていると判断しているようである。
しかし,離婚を認めるかどうかは,そんな単純な話ではない。次の裁判例を紹介しよう。裁判官による違いが分かるはず。
徳島家庭裁判所平成21年11月20日判決は,①甲が丙女と不倫関係を結び同棲して6年7か月であるが,不倫相手の丙女と同棲をしているのであるから,夫婦関係に破綻は明白だ。で,別居期間は6年7か月しかなくとも,夫婦破綻ははっきりしている。それをまだ短いといって,既に心のつながりという本質を失った婚姻関係に懲罰的につなぎ止めることも,厳格に過ぎる。➁甲は妻の乙に2730万円の財産分与すると約束している上,今後もこれまでと同様の経済的支援を行うことを約束している。との理由で離婚請求を認めた。
しかし,その控訴審の高松高等裁判所平成22年11月26日判決は,①別居期間は約7年5か月であり(控訴審の時間が加わっているので一審より長い別居期間になっている)、双方の年齢や同居期間に照らしても必ずしも相当の長期間に及んでいるものではなく、➁また、甲乙夫婦間には,成人ではあるものの、複数の障害により24時間の付添介護が必要である子が存在しており、その子は未成熟子あるいはこれに準ずるものといえるし,③妻の乙は,将来的には,経済的に過酷な状況におかれる可能性を否定することはできないので,甲からの離婚請求は認められないとして,原判決を取り消し、甲からの請求を棄却した。
一審と二審,見事に結論を異にしている。裁判官の人生観,価値観,家庭観,あるいは不倫という行為の影響に対する洞察力の差が,結論の違いか?
はて,読者諸賢は,一審派か二審派か,お尋ねしてみたいものだ。