一字違えば意味違う (相続放棄と相続分の放棄)
賃金は、働く者の生活を支える貴重なお宝だ。タコ部屋へ入れられ、賃金のピンハネがまかり通った時代もあったが、今は、労働基準法という立派な法律がある。ピンハネ、相殺、親、女房への支払も厳禁だ。賃金は、正しく、働く人に支払うべし、という法律だ。これを賃金直接払いの原則(労働基準法24条1項本文)という。だから、雇い主は、賃金を、従業員の女房に渡してもダメなのだ。
しかし、原則あるところ、例外あり。いや、こと法律の世界では、一般論として、このようなことは言えね~。ただ、賃金の場合には、例外がある、と言い直そう。
例外の1は,労使協定がある場合である(労働基準法24条1項ただし書)。労使協定とは、労働組合と使用者との書面による、組合員の労働条件に関する合意書だ。組合費や社宅家賃の天引きなどは、この労使協定があれば可能だ。
例外の2は,会社が賃金の計算を間違え、賃金を多めに払ったような場合で、その払いすぎの金額を、「労働者の経済生活の安定を脅かすおそれのない」金額にして、長期分割で控除するようなときである(最判昭和44年12月18日)。この判例がいうところは、「賃金の過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ,また,あらかじめ労働者にそのことが告知されるとか,その額が多額にわたらない」ようなときに限られるということだ。
賃金の払い過ぎ額が大きい場合、比較的長期にわたった分割天引きにする配慮が要るのだ。
例外の3は,本人の同意がある場合だ。すなわち,最判平成2年11月26日は,賃金からの控除が、「本人の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合には」許されるというのである。
従業員が何らかの理由で会社に損害を与えたような場合、会社は支払賃金の中から、その損害賠償額を控除したいだろうが、その場合は、従業員の生活への影響を最小限にとどめる配慮を見せて、長期分割による天引き計画を立て、従業員の同意書をもらってすべきなのである。
それ以外は、天引き、相殺はできないのである。