必要は法なき所に法を生む (判例の意義)
解雇をする場合、懲戒解雇と普通解雇の二種がある。これに整理解雇を加えると解雇の種類は三種になる。
懲戒解雇は、仕事をする能力はあるが悪いことをしたからする解雇、つまり制裁としての解雇である。
普通解雇は,悪いことをしたわけではないが仕事をする資質・能力がないためにする解雇である。
整理解雇は、従業員が悪いわけでも資質・能力がないわけでもないが,会社の業績が悪いためにする解雇である。
いずれの解雇も、簡単にはできるものではない。従業員やその家族を路頭に迷わすことになるからである。
懲戒解雇ができる事案で,普通解雇にすることは許される(大阪地判平成10.7.17)。 不名誉となる懲戒解雇を選択しないで,普通解雇にすることは,労働者にとって不利益にはならないからである。
しかし,懲戒解雇が有効とされるためには,労働者の行為が,予め就業規則等に定められている懲戒事由に該当する必要がある(最高裁昭和54年10月30日判決)。しかし、懲戒事由があっても,懲戒権の行使が権利の濫用と判断される場合には懲戒処分は無効とされる(労働契約法15条)。通常,懲戒処分は、軽いものから順に重いものにしていくことが要求される。戒告,減給,出勤停止、そして懲戒解雇だ。もっとも、程度、内容によっては、これらの順を踏まないでする懲戒解雇も許される。罪を犯した場合などは、懲戒解雇やむを得ぬ場合もあるであろう。そうなのだ。懲戒解雇は、「やむを得ない事由」がなければ無効になるのだ(労働契約法17条)。
普通解雇も簡単にはできない。資質・能力がない場合は,降格・配転などをし,解雇は回避するべしとされている。
整理解雇もしかりである。出向,転職への努力・協力義務がまず先行する。
いずれの解雇であっても,解雇をするには、事前の適正手続を履践することが肝要だ。これをしないで解雇すると、裁判ですぐに負けてしまう。懲戒解雇の場合は、特に、事前の弁明を与える手続を踏む必要がある。懲戒解雇事由を普通解雇事由にする場合も,懲戒解雇と同様に考えてすることだ。この場合の普通解雇も,「やむを得ない事由」がなければ無効になる(労働契約法17条)。
よく社長がカリカリして、気に入らぬ従業員を、クビだ、と怒鳴って本当にクビにすることがあるが、このような手続無視の解雇は、裁判になると無条件敗訴になる。
解雇の三種のいずれをするにしても、解雇理由は、客観的に判断されるべきことになる。たんに,全従業員が,Aがいると怖いとか,一緒に仕事が出来ないという訴えだけを根拠にして解雇すると無効とされてしまう。
解雇の手続を踏んで,客観的に解雇やむなしと判断される場合でないと,解雇すべきではないということだ。