無償の利用権は有償の利用権より弱し (使用借権と賃借権)
相続の放棄と相続分の放棄は,一字違うだけで,意味が全然違ってくる。
相続の放棄は,相続人ではなくなるということだ。だから,債務も相続しない。え!あの親父め。残してくれたのは,借金だけか。だったら,相続放棄をするぞ,と言って,相続開始を知って3か月以内に,家庭裁判所へ申述すれば,相続放棄ができる。相続放棄をすると,相続人ではなくなり,借金の支払義務は負うことはない。これが相続放棄の大きな効果だ。
一方,相続分の放棄とは,相続した後の,相続財産からのもらい分の放棄だ。いや,違う。より正確に言えば,遺産分割に参加する権利を放棄することだ。家庭裁判所で,遺産分割の調停や審判をするとき,裁判所は,相続分の放棄をした相続人については,手続から排除するという決定をするが,相続分の放棄は,その手続の中でなされるのだ。だから,債務の相続分の放棄というものはない。要は,親父の借金は,相続放棄をしないでいると,相続分を放棄しても,相続分に従った支払義務が残るということだ。ここを勘違いすると,思わぬ借金地獄に落ちることになる。用心が肝要だ。
ところで,相続放棄や相続分の放棄をした後の,他の相続人への影響は,面白い数字になる。例えば,相続人が,妻,長男,次男,長女で,遺言がない場合は,相続分は,法定相続分になり,妻・・1/2,長男・・1/6,次男・・1/6,長女・・1/6になるが,長女が相続放棄をした場合,長女は初めから相続人とはならなかったことになるので,相続分は,妻・・1/2,長男・・1/4,次男・・1/4になる。
一方,長女が,相続放棄はしないで,(裁判所での調停や審判で)相続分の放棄をした場合だと,長女の相続分は,残された相続人に対しその相続分率に応じて配分されることになるので,妻・・3/5,長男・・1/5,次男・・1/5になる。
この計算式は,簡単だ。まず,
①全相続人の相続分を,分母を同じ数にして通分する。 → 妻・・3/6,長男・・1/6,次男・・1/6,長女・・1/6
➁長女が相続分を放棄すると,長女の分子1を,妻と長男と次男それぞれの分母6から引く。 → 妻・・3/5,長男・・1/5,次男・・1/5
これが,他の相続人の相続分になるのだ。
この上に,更に,次男が相続分を放棄すると,次男の分数1/5の分子1を,残った妻と長男の分数の分母の5から引けばよい。そうすると,妻・・・3/4,長男・・・1/4になる。 この計算式,面白いだろう。