自治体のする契約 2 私法上の契約と公法上の契約
1,公共施設の管理者の同意がないと,開発許可はなされない
都市計画法32条1項は「開発許可を申請しようとする者は、あらかじめ、開発行為に関係がある公共施設の管理者と協議し、その同意を得なければならない。」と規定しています。
そして,同条2項は,「開発許可を申請しようとする者は、・・・公共施設を管理することとなる者・・・と協議しなければならない。」と規定し,さらに同条3項は「・・・公共施設の管理者・・・は、公共施設の適切な管理を確保する観点から、・・・協議を行うものとする。」と規定していますので,公共施設の管理者の同意・不同意は,「公共施設の適切な管理を確保する観点から」なすべきことになります。
なお,この「同意」は,開発許可の要件になっています。すなわち,公共施設の管理者の同意のない開発許可はできないのです(最高裁判所平成7.3.23判決)。
2,2つの意味
公共施設の管理者の同意・不同意は,「公共施設の適切な管理を確保する観点から」なすべきことになる,ということは,
(1つ目の意味)
他の行政目的を達成するために,同意・不同意をしてはならないということです。
例えば,固定資産税の滞納を理由に同意しないということは許されないということです。そして,
(2つ目の意味)
開発許可により,公共施設の適切な管理を確保することが困難と判断されるときは,同意してはならず,逆に,そうでない場合は,同意しなければならないということです。
例えば,開発許可の基準の1つとして,都市計画法33条1項三号は「排水路その他の排水施設が、・・・下水を有効に排出するとともに、その排出によつて開発区域及びその周辺の地域に溢水等による被害が生じないような構造及び能力で適当に配置されるように設計が定められていること」を設けていますが,この基準に適合している場合は同意をし,この基準に適合していない場合は同意をしてはならないということです。
3,同意の法的性格は「公法上の判断行為」で行政処分ではない
最高裁判所平成7.3.23判決は,同意をするかしないかは,公法上の判断行為にすぎず,行政処分としてに性格はないので,その取消訴訟を起こすことはできないと判示しています。
4,しかし,同意,不同意を問わず,損害賠償義務が生ずる場合がある
(1)同意した場合の損害賠償義務
例えば,開発許可の要件の1つに,前述の排水施設の適正構造能力要件がありますが,この要件を満たしていないのに同意をした結果開発行為がなされ,そのため溢水事故が生じた場合で,同意をしたことに過失があると判断されるときは,公共施設の管理者たる自治体は,損害賠償義務を負います。
(2)不同意の場合の損害賠償義務
また,逆に,前記開発許可の要件を満たしているのに,同意を拒否した場合は,開発許可申請者に対し,損害賠償をする場合もあります。
徳島地裁平成24年5月18日判決は,同意を拒否された開発業者から,公共施設を管理する自治体に対し,①不同意の取消と➁不同意の結果開発行為ができなくなったことによる損害賠償を請求した事件で,①不同意は,公法上の判断行為でしかなく,行政処分にはならない(前記最高裁判決を引用)という理由で,その取消を求める部分については却下し,➁不同意にしたことについては,被告自治体が公共施設の管理上の支障についての相応の調査,検討を経た形跡がないことを理由に,同意・不同意を判断する上での裁量権の行使に,逸脱又は濫用があったとして,損害賠償請求を認めています。
5,広い裁量権
公共施設の管理者の判断が間違っていた場合は,損害賠償の請求をされる可能性がありますが,それは結果責任を問われるのではなく,同意・不同意の判断をする上に認められた裁量権の濫用又は裁量権の逸脱がある場合になります。そして,この判断は,上記の例で言えば,開発行為がなされた後の,公共施設(水路)が許容できる流入量,過去一定期間内での最高日雨量から割り出される予想最大流入量の算出,それを前提とした溢水の可能性などの技術的判断ですので,広範な裁量権が与えられています。