賃貸借契約と転貸借契約はリンクするか?
福岡高等裁判所平成平成19年7月24日判決事件をご紹介します。
1,「建て貸し」契約の締結
本判決の事案は,甲が甲所有の土地上に乙の仕様による店舗を建築し,その建物を乙に賃貸するという,いわゆる「建て貸し」契約を締結した事案です。
2,中途解約に関する特約
この事件の賃貸借契約には,中途解約に関しては,次の➁と③の特約が結ばれています。
①契約期間は15年間。
➁中途解約はできない。ただし,6か月前までに賃貸人甲の書面による同意があるときは,中途解約ができる。
③乙が中途解約をした場合,乙は甲に対し,建物の償却残高から敷金を控除した金額を違約金として支払う。
3,相当な理由があれば,特約によらない中途解約もできる
前記福岡高裁判決は,
①この契約は期間満了まで借り続けることが予定された契約である。
➁甲は乙からの解約・解除に同意していない。(したがって,前記特約による中途解約はできない。)
③しかしながら、本件契約にも中途解約を想定した規定は置かれている。
④このケースでは,相当の理由がある場合には、乙からの一方的な解約を許し、ただ、いわゆる「建て貸し」契約であることから中途解約された場合に発生する甲の損害を違約金の支払義務という形で填補することによって、賃貸人の利益の保護を図ることとするのが相当である。」と判示しました。
4,中途解約ができる相当の理由
この判決は,相当な理由についての範囲や定義には触れず,
①賃借建物には乙の営業に影響があると考えられる瑕疵があったこと,
➁それをそのままの状態にしておいて,乙に営業の継続を強いることは相当ではないこと(ただし,乙から甲に対し債務不履行を理由とする解除はできない程度のもの),
③甲にはその瑕疵につき自ら修繕義務を履行する意思がなかったこと
などの事情を考慮し,中途解約を認めるのが相当である,と判示しました。
5,中途解約による違約金の計算方法
この契約では,違約金としては,解約時「償却残高」から敷金を控除した金額と定めていたものの,「償却残高」の算定方法については明確な定めはないというケースでしたが,「償却残高」の算定方法は,契約が中途解約された場合により貸主の損害を填補し得る方法が予定されていたと解するのが相当である,と判示した上で,
ア 減価償却の基礎となる取得価額
①減価償却の基礎となる取得価額は,本件建物の建築費と追加で支出した地盤改良費(基礎杭の打設)に限定するのが相当であり,不動産取得税や土地の盛り土費用はその対象には加えないこと。
➁建物は,「建築主体工事(地盤改良費基礎抗の打設)を含む)」、「電気設備・給排水、空調工事」、「外構工事」に区分けして取得価額を決める。
イ 減価償却の方法・償却期間
減価償却方法は,定率法ではなく,定額法を採用する。償却期間については、便宜、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一に従う。
ものと判示しました。
6,過失相殺は可能
以上の違約金に関する定めは、貸主に発生する損害賠償額を予定したものであるが,契約上、損害賠償額が予定されていたとしても、債務不履行に関し債権者に過失があったときは、特段の事情がない限り、これを斟酌すべきである(最高裁平成6年4月21日判決)ところ,
①本件建物には地盤沈下(不等沈下)に起因する相当な瑕疵が発生しており、その瑕疵の存在が中途解約の一因となったこと,
➁その瑕疵について、甲に修繕義務違反の債務不履行が認められることなどから,
中途解約には甲にも30%の過失があったと判示しました。
7,解約後,甲が建物を別のテナントに賃貸して得た収入は,違約金から控除できない
この件は,中途解約がなされた後,甲は,別のテナントに建物を賃貸して収入を得たのですが,同判決は,乙が甲に対し支払うべき違約金は本件契約を継続した場合に乙が支払うべき本件賃料額を大きく下回る額で確定したのであって、その後に本件建物を甲がどう使用するかは甲の自由な処分に任されているのであるから、甲がその後本件建物を第三者に賃貸したとしても、その賃料について乙の支払うべき違約金から控除しなければならない筋合いにはない,と判示しました。
平成29年9月15日記事追加
判例タイムズ1278号207頁は、同福岡高裁判決の解説として、一般論としてか?、赤字経営を続けなければならない賃借人に、賃貸借期間満了まで契約の継続を強いることは酷であり,解約を認める判断に異論はあるまい、と書かれています。、