賃借人が賃借建物内で死亡していたとき
1,サブリース契約
サブリース契約とは,言葉の意味でいうと,転貸借契約のことですが,不動産会社や建設会社が,土地所有者に,建物の建築を勧め,建物完成後その建物を一定期間の家賃を保証する特約付きで借りる(転貸目的)契約をいう場合があります。
後者の契約は,次のようか経過をたどって結ばれるのが一般です。
(1)不動産や建築を業とする会社が,土地の所有者(B)に対し,次のことを約束して,建物の建築を勧める。
・建物は,A社(又はA社の子会社)が賃借して,一般のテナントに転貸する。
・A社は,一定期間,Bに家賃を保証する。
(2)Bは,そのA社が保証を約束した家賃が保証期間支払われることを前提に,収支予測を立てる。
(3)収支予測が立ったときに,BはA社に建物を建築してもらう。
2,問題
その1は,家賃保証の特約がある場合,家賃の減額請求はできるのか?
その2は,サブリース契約における家賃減額の限度はあるのか?
3,判例
最高裁平成15.10.23判決は,借家人からの賃料減額請求は、強行法規である借地借家法32条1項によるものであるから,賃料保証特約があっても,相当な理由があれば,減額請求はできると判示しました。
それを前提に,東京高裁平成16.12.22判決は,サブリース契約の特徴を踏まえ,賃料減額の可否と限度を,次のとおり判示しました。
①サブリース契約にあっては、賃料減額請求の当否や相当賃料額を判断するに当たって、賃貸借契約の当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきである。
➁Bは,A社との賃料の保証約束を信頼して、多額の借財をし、資金をこれに投じたものであり,A社との共同事業でもっとも関心が高いのは予想収支が確保されるか否かである。
③収支予測のうち公租公課が予測額に比べ相当額(この事件では4割近く)下がっていること,銀行からの借入金利息の額も,変動金利の低下により少なくなっていること,一方でA社がテナントより受け取る家賃も下がっていることなどの経済事情の変動等があれば,従前の保証賃料は不相当なものになったとして,相当額にまで家賃の減額請求が認められる。
④相当賃料額を判断する場合,サブリース契約でない通常の賃貸借契約を前提とする適正賃料額の鑑定価格は,相当賃料額であるということはできない。
⑤Bが本件の事業を行うに当たって考慮した予想収支、それに基づく建築資金の返済計画をできるだけ損なわないよう配慮して相当賃料額を決定しなければならない。
⑥Bの借入金負担は,収支予測額比べ,月額α万円程度軽減され,また、Bが負担する公租公課は,月額β万円減少しているので,これらの軽減額を超えない限度で従前賃料が減額されたとしても、Bが当初予測した収支内容を損なうことになるものではないということができる。そこで,従前賃料額から(α万円+β万円)を減額した金額をもって相当というべきである。
と判示しました。
これにより,サブリース契約を結んだBは,仮にA社からの家賃減額請求が認められても,契約当初の収支予測における収支差額は得られることになります。