賃貸借契約と転貸借契約はリンクするか?
結論
できません。
Q では,地主には,何の対抗策もないのか?
A あります。小作契約の解約が可能になります。
解説
1,小作料の歴史
1)統制令時代
小作料は,昭和14年の小作料統制令によって最高額の制限を設けられていました。
2)標準額の設定時代
昭和55年10月1日以降,小作料の最高額の統制が廃止されましたが,農地法は,耕作者の経営の安定を図るため,農業委員会に,小作料の標準額を決めること,契約で定める小作料の額が標準額より著しく高額であるときは,小作料の減額を勧告することができる等の規定を設け,小作人を保護する政策を続けました。
2,市街化区域内農地の宅地並み課税制度
一方,市街化区域内農地は,昭和48年以後,段階的に,宅地並みに課税されるになりました。その結果,小作料よりも固定資産税の方が高いという,いわゆる「逆ざや現象」が起こるに至ったのです。
3,問題の発生
固定資産税が小作料より高くなった場合,地主から小作人に対し,農地の小作料を固定資産税と同額にまで値上げ請求ができるかということが問題になりました。
4,最高裁判所平成13年3月28日判決
同最高裁判決は,
①農地法20条は,小作料の額が,農産物の価格若しくは生産費の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により又は近傍類似の農地の借賃等の額に比較して不相当となつたときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かつて借賃等の額の増減を請求することができる,と規定しているが,小作地に対する公租公課の増減を小作料の増減事由としていないこと。
② 農地法は,小作料の統制廃止後においても,前記標準額設定制度により,農業委員会による,耕作者の経営の安定を図るため,小作料の減額を請求することができるなどの政策をとっていること。(筆者注:小作料の増額を抑制する政策を続けていること)。
③ 農地に対する宅地並み課税は,土地の値上がり益が当該農地の資産価値の中に化体していることに着目して導入されたものであるから,宅地並み課税の税負担は,値上がり益を享受している農地所有者が資産維持の経費として担うべきものと解されること。
④ 小作農は,農地を農地としてのみ使用し得るにすぎず,宅地として使用することができないのであるから,宅地並みの資産を維持するための経費を小作料に転嫁し得る理由はないこと。
を理由に,地主には,小作料を,固定資産税と同額にまで増額請求できる権利はないと判示しました。
5,地主の対抗策
前記最高裁判所判決は,続いて,
⑤ 4項の結論だと,農地所有者は小作料を上回る税を負担しつつ,当該農地を小作農に利用させなければならないという不利益を受けることになる。
⑥しかし,農地所有者が宅地並み課税によって受ける上記の不利益は,当該農地の賃貸借契約を解約し,これを宅地に転用した上,宅地として利用して相応の収益を挙げることによって解消することが予定されているのである。
⑦小作人との間で,合意解約ができない場合には,農地所有者は,具体的な転用計画があるときには法20条2項2号に該当するものとして,あるいは当該農地が優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域である市街化区域内にあることや逆ざや現象が生じていることをもって同項5号に該当するものとして,解約について知事の許可(同条1項)を申請し,具体的事案に応じた適正な離作料の支払を条件とした知事の許可を得て(同条4項。農地法施行規則14条1項7号参照),解約を申入れることができるものと解される(民法617条)。
との理由で,地主は,適正な離作料を支払うことで,小作契約を解約できると判示したのです。
6,小作人に固定資産税の増額分を転嫁できない理由
前記最高裁判所判決は,続けて,
⑧農地所有者には宅地並み課税による不利益を解消する方法として,上記のとおりの方途が存在するのに対し,宅地並み課税の税負担を小作料に転嫁した場合には,小作農にはその負担を解消する方法が存在せず,当該農地からの農業収益によって小作料を賄うこともできないことから,小作農が離農を余儀なくされたり小作料不払により契約を解除されたりするという事態をも生じ兼ねないのであって,小作農に対して著しい不利益を与える結果を招くおそれがあるというべきである。
との理由を述べています。