遺言執行者⑭遺留分減殺請求先に要注意
Q 父が亡くなり、相続人は私と兄と弟の3名で、法定相続分は、それぞれ3分の1ですが、まだ遺産分割をしていないのに、兄一家は、相続財産である父の居宅に住んでいます。そこで、私と弟の共有持分を合わせると3分の2になるので、それを根拠に、兄一家に退去を求めることはできますか?
A できません。
1,判例
最高裁判所昭和41年5月19日判決は、
①共同相続に基づく、共有者の一人が、相続財産を使用している場合は、
②その者の持分の価格が、共有物の価格の過半数に満たない者(少数持分権者)であっても、多数持分権者は、当然にその明渡を請求することができるものではない。
③なぜなら、少数持分権者は、自己の持分によつて、共有物を使用収益する権限を有し、これに基づいて共有物を占有するものと認められるからである。
④従つて、この場合、多数持分権者が、少数持分権者に対して、共有物の明渡を求めることができるためには、その明渡を求める理由を主張し立証しなければならないのであるが、この件では、その明渡を求める理由が主張立証されていないので、明渡の請求は認められない。
と判示しているのです。
ですから、あなたの場合、お兄さんの持分が3分の1で、あなたと弟さんの持分を合わせて3分の2になるといっても、それだけを理由には、あなたと弟さんが原告になって、お兄さんに明渡を求めることはできません。
2,明渡を求める理由
前記判例は、その場合でも、明渡をもとめる理由があれば、明渡の請求ができると判示しているのですが、前記判例は、明渡の理由を具体的にはしていません。
そのため、この判例のいう「明渡を求める理由」については、諸説説かれているのです(判例タイムズ1390号5頁以下に学説や下級審の裁判例が紹介されています)が、事実上、相続人の1人が相続財産を使用している場合、他の相続人からの明渡請求はできないようです。