民法雑学 最高裁の破棄判決例と囲繞地通行権
1,債権の消滅時効期間
ア) 民法上の債権
民法167条は、「債権は、10年間行使しないときは、消滅する。」と規定していますので、10年間で消滅します。
イ) 商行為によって生じた債権
商法522条本文は「商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、5年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と規定していますので、商行為によって生じた債権は5年間で消滅します。
ウ) 短期消滅時効期間の債権
商法522条但し書きは「ただし、他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。」と規定していますので、商法以外の他の法令で短期間で消滅するとされた債権は、そこに定められた期間で消滅します。例えば、「医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権」は、民法170条1号により、3年間で消滅します(民法170条1号)。
エ) 普通地方公共団体の債権
地方自治法236条1項は「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか、5年間これを行なわないときは、時効により消滅する。」と規定していますので、5年間で消滅します。この債権については、時効の援用をしなくとも、当然に消滅します(2項)。
ただし、ここでいう債権は公債権を意味します。すなわち、地方公共団体の持つ金銭債権は、税金債権をはじめとする公債権といわれるものと、私債権といわれるものがあります。前者は地方自治法236条の適用を受け、後者は民法の適用を受けるのです。
3,公立病院における診療債権の消滅時効
ア) 行政実例(昭和34年5月26日自丁行第73号全国都市監査委員会長宛行政課長回答)は、市立病院における「医療費は市立病院の行う診療の対価として営造物(現行法では公の施設)の使用料と解されるので、地方公共団体の医療費請求権の時効については、民法第170条第1号の適用はなく、自治法第225条第5項(現行法では236条第1項)の規定によるべきである。」と解してきました。
イ) 最高裁平成17年11月21日判決は、公立病院において行われる診療は,私立病院において行われる診療と本質的な差異はなく,その診療に関する法律関係は本質上私法関係というべきであるから,公立病院の診療に関する債権の消滅時効期間は,地方自治法236条1項所定の5年ではなく,民法170条1号により3年と解すべきである、と判示しました。
4,水道料金債権について
最高裁平成15年10月10日決定は、「水道供給契約は私法上の契約であり、したがって、被控訴人が有する水道料金債権は私法上の金銭債権であると解される。また、水道供給契約によって供給される水は、民法173条1号所定の『生産者、卸売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品』に含まれるものというべきであるから、結局、本件水道料金債権についての消滅時効期間は、民法173条所定の2年間と解すべきこととなる」との東京高等裁判所の判決を支持しました。