親子の間の土地使用貸借
結論
地価の上昇を前提に3年ごとに地代を10%値上げするという地代の自働増額特約の有効性につき、判例は、そのような特約は有効であり、また、地価が予想に反して下落するようになってもなお有効であるが、地価が契約当初の半額以下になったときは、借地人がその効力を争う場合は無効になり、逆に、借地人から地代減額請求が出来る、としています。
以下、それに関する判例を紹介します。
1 借地借家法11条1項の地代減額請求の規定
借地借家法は、建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約の当事者は,従前の地代等が,土地に対する租税その他の公課の増減により,土地の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍類似の土地の地代等に比較して不相当となったときは,地代等の増減請求権を行使することができる、と定めています。
2 地代増減額請求の根拠規定とその強硬法規性
地代増減額請求は,長期的,継続的な借地関係では,一度約定された地代等が経済事情の変動等により不相当となることも予想されるので,公平の観点から,当事者がその変化に応じて地代等の増減を請求できるようにしたものと解されています。なお、この規定は,地代等不増額の特約がある場合を除き,契約の条件にかかわらず,地代等増減請求権を行使できるとしているのであるから,強行法規としての実質を持つものとされます(最高裁昭和31.5.15判決)。
3 とはいうものの、地代増額特約は有効
最判平成15.6.12は、地代等の額の決定は,本来当事者の自由な合意にゆだねられているのであるから,当事者は,将来の地代等の額をあらかじめ定める内容の特約を締結することもできると。そして,地代等改定をめぐる協議の煩わしさを避けて紛争の発生を未然に防止するため,一定の基準に基づいて将来の地代等を自動的に決定していくという地代等自動改定特約についても,基本的には同様に考えることができる。そして,地代等自動改定特約は,その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には,その効力を認めることができる、と判示しています。
4 しかし、事情が変更すれば、無効になる場合がある
しかし,同最判は、当初は効力が認められるべきであった地代等自動改定特約であっても,その地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより,同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には,同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず,これを適用して地代等改定の効果が生ずるとすることはできない。また,このような事情の下においては,当事者は,同項に基づく地代等増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない、と判示しています。要は、事情が変更した場合は、自働増額条項の特約は無効になる場合がある、というのです。
5 その無効になる理由は?
同最判は、土地の価格が将来的にも大幅な上昇を続けると見込まれるような経済情勢の下で,時の経過に従って地代の額が上昇していくことを前提として,3年ごとに地代を10%増額するなどの内容を定めた本件増額特約は,そのような経済情勢の下においては,相当な地代改定基準を定めたものとして,その効力を否定することはできない。しかし,土地の価格の動向が下落に転じた後の時点においては,上記の地代改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより,本件増額特約によって地代の額を定めることは,借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなったというべきである、と判示しました。
6 具体的には?
同最判は、土地の価格の動向が下落に転じ,当初の半額以下になった時点においては,地代増額特約の適用を争う借地人は,もはや同特約に拘束されず,これを適用して地代増額の効果が生じたということはできない。また,このような事情の下では,借地人は,借地借家法11条1項に基づく地代減額請求権を行使することに妨げはないものというべきである、と判示しました。
7 目安
地価が半額以下になったときです。同最判は、地価が下落して、当初の半額以下になったときは、もはや自働増額特約は無効になるというのです。
8 その場合は、地代減額請求が出来る。
地代増額特約が無効になれば、当然、借地借家法11条1項により、地代減額の請求ができることになります。
9 まとめ
同最判では、地価の上昇を前提に、3年ごとに地代を10%値上げするという自働増額特約は、有効であり、また、予想に反して地価が下落するようになってもなお有効であるが、地価が契約当初の半額以下になったときは、借地人がその効力を争う場合は無効になり、逆に地代減額請求が出来る、と判示したのです。
事情原則との関係
契約締結後その基礎となった事情が、当事者の予見し得なかった事実の発生によって変更し、そのため当初の契約内容を当事者を拘束することが極めて過酷になった場合に、契約の解除又は改訂が認められるかどうかが、いわゆる事情変更の原則の問題ですが、上記最高裁判所判決は、一般論としての、事情変更の原則を認めたものとはされていません。
上記最高裁判所の判例解説を参照