相続税のお話し 7 代償分割に潜む落とし穴
Q 父が遺言書を残して亡くなりました。相続人は母花子、長男の私一郎、妹の一子の3名です。
遺言書には、
①父の財産を母と私に1/2ずつ相続させるという条項、
②一子を推定相続人から廃除するという条項、
③A弁護士を遺言執行者に指定するという条項
が書かれていました。
しかし、私と母と妹の3人は、父の相続財産を3人で遺産分割したいと思っています。
⑴これは父の意思を無視する結果になりますが、できますか?
⑵また、遺言執行者A弁護士の家庭裁判所に対する一子の推定相続人の廃除の請求を阻止できますか?
A 質問の⑴と⑵はいずれも、できません。
ただ、事実上、それをしても問題は起こらないと思われます。
1遺言執行者による相続人廃除請求の意味と手続
⑴ 廃除請求の意味
廃除請求とは、相続人の資格を奪うことです。
⑵ 手続
手続は、民法893条は「被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。」により、遺言執行者が家庭裁判所に請求することになります。
⑶廃除理由
廃除理由は「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」(民法892条)です。
⑷ 裁判所での審理
裁判所は、当該相続人に廃除理由があるかどうかを審理しますが、廃除理由は通常は遺言書に書いているはずですが、遺言書に書いていない場合でも裁判所は職権をもって広く廃除理由の有無について事実調査と証拠調べをしなければなりません(第22回南関東家事審判官協議会決議昭31.9.20家月8巻7号)。
2 遺言執行者の職務
遺言執行者は、必ず、廃除の請求をしなければなりません(前記民法893条)ので、相続人間の話し合いで、これを阻止することはできません。
3 しかし、次のような問題があります。
⑴ 廃除されるまでの間は、遺産分割が可能か?
この問題については、①廃除請求を受けている相続人を除外してその他の相続人間で遺産分割すべきであるとの見解、②廃除請求された相続人を含めた全相続人間で遺産分割をし、その後相続人廃除が確定したときは被廃除者に配分された分をその他の相続人間で遺産分割をし再配分をするという見解、③相続人廃除の審判が確定するまで遺産分割を延期すべきであるとの見解に分かれます。
⑵ 遺言執行者が、廃除請求しない場合は?
遺言執行者が、廃除請求をしない場合は、他の相続人等利害関係人は、遺言執行者を任務懈怠により解任請求することができます。すなわち、民法1019条1項は「遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。」ことになっているのです。
⑶ 遺言執行者の意思次第
以上の次第ですので、廃除の対象になった相続人以外の相続人全員が、廃除をしたくないと考え、遺言執行者にその旨を伝え、遺言執行者がこれら相続人の意思を尊重して、敢えて相続人の廃除を請求しないでおいたとしても、また、廃除の対象になった相続人を含め全相続人の間で、遺産分割を成立させても、誰からも、不服を言われることはないでしょう。そう考えて遺言執行者が敢えて廃除の請求をしないでおくか、遺言書に書かれた遺言者の意思を尊重して、廃除の請求をするかは、遺言執行者の意思次第ということができるでしょうが、法的には、遺言執行者は、廃除の請求の義務があります。