相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
Q では、特定の財産を特定の相続人に相続させる旨の遺言で、遺言執行者が必要な場合とは、どんな場合ですか?
A 遺言書に、遺言執行者の職務が書かれている等の場合です。
すなわち、最判平10.2.27でいう「遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡しを遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情」がある場合です。
例
1処分型遺贈の場合
例:財産を処分して、売買代金を、相続人に「相続させる」遺言
【遺言文例】
一項私こと凸山太郎は、妻春子の老後の生活を最優先に考え、自宅である下記不動産⑴と預貯金の全額を、妻春子に相続させる。
二項賃貸用の下記不動産⑵及びその不動産内にある動産のすべて並びに○○証券会社に預けてある株式・投資信託のすべては、長男一郎及び長女一子に2対1の割合で相続させることにするが、賃貸物件の管理の労を、経験のない一郎と一子には負わせたくないので、本項に書いた財産はすべて、遺言執行者甲弁護士において売却し、その代金の中から、売買に伴う費用の全額、銀行からの借入金債務の全額(他に債務はないはずだが万一他に金銭債務がある場合はそれを含む)、遺言執行者報酬を支払い、残金を、一郎2対一子1の比率で、相続させるものとする。
三項動産は、次のとおり、花子、一郎、一子各自に、相続させる。
解説
この遺言文例のうち、二項は、被相続人の財産を売却処分する事項が含まれていますので、売却する者の関与を予定した遺言事項になっています。
この場合は、遺言者の意思を実現する行為、つまり遺言の執行が必要になり、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が遺言を執行することになります。
2負担付き遺贈、すなわち、相続人に、一定の義務を負わせる遺言
【遺言文例】
一項 私こと凸山太郎は、妻春子の老後の生活を最優先に考えて、本遺言書を書き残すが、妻花子はすでに、社会福祉法人○○会の世話になり、自宅での生活は不可能になっている。そこで、自宅である下記不動産⑴と預貯金の全額を、長男一郎に相続させる。
二項 一郎は、花子が亡くなるまで、花子が世話になっている○○会(施設が代わった場合は新しい施設)への支払をするほか、それとは別に、毎月10万円あてを花子に小遣いとして支払うこと、および、その支払状況を、毎月1回、遺言執行者A弁護士に、書面で報告すること
三項 遺言執行者A弁護士は、前項の一郎の義務を監督し、一郎が義務を履行しないときは履行させること、履行させることが不可能であるときは、法に基づき、花子のために、然るべき手続をとること。なお、A弁護士の判断において、花子に小遣いが必要でない段階に至ったときは、一郎の小遣い支払義務を免除すること
解説
この遺言は、相手が相続人ですので、「遺贈する」という表現を使わず、「相続させる」という表現にしていますが、負担付き遺贈(民法1002条)と言われるものです。ですから、当然、遺言の執行は必要になります。遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者が、遺言の執行をすることになります。
3 その他
その他にも、条件付遺贈などもあり、遺贈は、遺言者が、そうしたいと願う内容を、そのまま文章にすれば、原則として、そのまま効力が生じます。この場合は、当然、遺言執行者が遺言内容を実現してくれることになります。
なお、遺言は、他種多様なものになりますので、遺言者の意思を最も効果的に表現したものにしたいものです。
そのためには、事前に、弁護士に相談するべきです。