相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
Q 先日、ある弁護士に遺言書に書く文言を相談したときのことです。
私は、遺言文言として、すべての財産について、妻子個々に、財産を特定して、「相続させる」と書いたのですが、弁護士から、遺言執行者の指定文言も必要なので書くように、と言われました。
「相続ノート」83ページには、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」と書いた遺言の場合は、遺言の執行は不要だと書かれていますが、遺言執行者の指定は必要なのですか?
A 遺言内容次第です。
1 特定の財産を特定の相続人に直接「相続させる」旨の遺言の場合は、遺言の執行は不要
最判平3.4.19は、
遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、・・・遺言者の意思は、・・・当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。・・・「相続させる」趣旨の遺言は、正に民法908条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、・・・特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。
と判示しています。
ですから、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」遺言は、「遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情」がない限り、遺産分割方法の指定であり、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されているものですので、遺言執行者による執行は必要ありません。
2 遺言執行者には、遺言の執行として、相続登記手続をする義務はない
なお、最判平7.1.24は、「特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる旨の遺言により、甲が被相続人の死亡とともに相続により当該不動産の所有権を取得した場合には、甲が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として右の登記手続をする義務を負うものではない。」と判示しています。
3 登記実務が変わる
最判平3.4.19を受けて登記実務が変わりました。
それまでは可能であった遺言執行者からの相続登記手続ができなくなったのです(「登記研究」平成3年8月号140ページ)。
相続登記は、当該相続人が単独で行えます(不動産登記法63条2項)。なお、相続と登記に関する説明は、まとめて後日する予定です。
以上により、遺言執行者には、遺産分割方法の指定にかかる不動産については、相続登記手続をする権利も義務もないことが分かります。