相続と登記 9 遺留分減殺請求と登記
Q 葬式費用の負担については、いろいろな考えがあるということですが、裁判例を教えて下さい。
A
1諸説あり
葬式費用の負担者については、①慣習によって決めるべし、②喪主(葬式の主宰者)が負担するべし、③相続人が相続分の割合で負担するべし、④相続財産に関する費用と考え相続財産が負担するべし(実質的には③と同じ)等諸説がありますが、
2相続人説
津地判平14.7.26は、
①相続人には条理上葬儀費用等を相続分の割合で分担すべき義務がある。
②その費用は、被相続人を弔うのに直接必要な儀式費用のみである。
③具体的には、死亡届文書代・葬儀社に対し支払った金額のうち会葬礼状代、ドライアイス、受付セット、コンパニオン費用、会館使用料、貸し布団使用料、サービス料、早期利用費、会員費、奉仕者へ支払った奉仕料、自治体への葬祭用具使用料、お寺への読経,車代である。
④その他の費用すなわち通夜,告別式等の会葬者等の飲食代金や返礼の費用,籠盛,生花,放鳥,戒名代,法要代,お寺への納骨冥骨金等は相続人が負担すべきものではない。
⑤なお、香典は、喪主が負担することとなる④の費用に先に当てられるべきであり、先に相続人らが負担すべき②の葬儀費用に当てられるべきものではない旨判示しています。
3喪主説(一部は祭祀の主宰者説)
名古高判平24.3.29は、
①葬儀費用とは,死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用,死亡届に要する費用,死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解される。
②追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者,すなわち,自己の責任と計算において,同儀式を準備し,手配等して挙行した者が負担し,埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。
③なぜならば,追悼儀式を行うか否か,同儀式を行うにしても,同儀式の規模をどの程度にし,どれだけの費用をかけるかについては,もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し,実施するものであるから,同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり,他方,遺骸又は遺骨の所有権は,民法897条に従って慣習上,死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解されるので,その管理,処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。
と判示しました。