相続税のお話し 7 代償分割に潜む落とし穴
Q 相続税を低くする方法はありますか?
A 次のような、方法がよく採られています。
1 「相続ノート」120ページの課税の仕組みのStep③の「課税遺産額」を下げる方法
⑴ 遺産を減らす
ア 基礎控除額を利用した生前贈与をしておく
この生前贈与は、暦年贈与という制度を利用する方法です。相続時精算課税対象の贈与であってはなりません。
暦年課税制度における贈与を受ける者(相続人になる者「推定相続人」やその家族)1人につき、1年間に110万円の基礎控除額がありますので、子や孫、嫁に、毎年110万円あるいは200万円程度ずつ生前贈与しておけば(110万円までの贈与は無税。110万円を超える贈与は超える分に課税されますが、その税率が相続税の税率より低率ならば贈与の方が有利)、その分相続開始時の財産が減少し、課税遺産額は少なくなります。この方法は、広く行われており、リスクはありません。
イ 婚姻期間が20年以上の夫婦の間の、居住用不動産又は居住用不動産を取得するための金銭の贈与
この制度を利用すると、基礎控除110万円のほかに最高2,000万円まで控除(配偶者控除)できますので、相続税を低くする効果は大きいと思います。また、この制度を利用すると、「相続ノート」121ページにも書きましたが、相続開始前3年以内の贈与であっても、大丈夫です。
ただ、この贈与をした場合、将来相続が開始したときに特別受益とされることになりますので、持戻しを免除するのかどうかを、遺言書又はその他の方法で、明らかにしておく必要があるでしょう。
⑵ 遺産の評価額を下げておく
ア 小規模宅地の評価減を受けることができるようにしておく
例えば、自用地をそのままにしていたのでは、路線価で評価されるので、その全部又は一部を事業用の土地としておくと、事業用小規模宅地として最大80%の評価額の減額がなされる場合があります。ただし、この方法をとるには、要件を満たすことが条件になります。なお、この方法は、事業失敗のリスクがあります。
イ 現金を事業用の償却資産に変えておく
例えば、手持ち資金又は借金で、賃貸マンションを建築すると、建築直後から、賃貸マンションの評価は半額程度になり、その後経年劣化に伴い固定資産税評価額が少なくなる可能性があります。これによる評価減は大きく、一頃は、大いに利用されました。しかし、この場合の償却資産は、たんに、評価額が下がったというだけではなく、実体価値も下がるというリスクと、賃貸事業の失敗のリスクがあります。
「相続ノート」29ページの、凸山太郎の悔いの声に耳を傾けて下さい。
⑶ 基礎控除額を増やす
ア 養子の数を増やす。
生前、子の配偶者や孫を養子にしておけば、養子1人につき1000万円、基礎控除額が増えます。ただし、実子がいる場合は、基礎控除額の計算に入る養子の数は1名に、実子がいない場合は2名に制限されます。なお、この方法のリスクは、養子が遺産分割に入ってくることです。遺言書で養子に財産を与えないようにしたとしても、養子の遺留分までは侵害できません。
2 「相続ノート」120ページの課税の仕組みのStep⑧の「相続人ごとの控除額」のうちの「配偶者控除」を一杯に使う方法
配偶者控除額は、「相続ノート」122ページに記載したとおり、遺産額の1/2又は1億6000万円のうち大きい方の金額までですから、これを活用することで、相続税を抑えることができます。ただ、この方法は、遺産額の1/2を超えて、配偶者に多く遺産を与えることになりますので、それを歓迎しない相続人がいると、できません。また、配偶者について相続が始まると、ここで、その分課税遺産額が増えることも考えておく必要があります。