遺言執行者⑭遺留分減殺請求先に要注意
Q
内縁の夫が亡くなったとき、残された内縁の妻には、何の権利もないの?
A
⑴ 寄与分は認められない
寄与分は、共同相続人の間で遺産分割をする場合に認められる権利ですので、相続人ではない内縁の配偶者には、寄与分を認める余地はありません。
⑵ 財産分与請求権も認められない
財産分与請求権は、夫婦が離婚をするときに認められる権利(民法768条)で、内縁関係の夫婦が破綻して別れるときにも、民法768条が類推適用され、財産分与請求権が認められる、というのが通説ですが、最決平12.3.10は、「内縁の夫婦の一方の死亡により内縁関係が解消した場合に、法律上の夫婦の離婚に伴う財産分与に関する民法768条の規定を類推適用することはできない・・・相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである」と判示しています。
⑶ 扶養請求権も認められない
前記最決平12.3.10は、また、死亡した内縁の夫が、内縁の妻に対し扶養義務を負っていたとしても、「生存内縁配偶者が死亡内縁配偶者の相続人に対して清算的要素及び扶養的要素を含む財産分与請求権を有するものと解することはできない」と判示していますので、扶養請求権も否定するものと考えられます。
⑷ では、共有権は?
東京地判平4.1.31は、内縁の夫婦が共同で呉服店を経営し、その利益で不動産を購入したが、その名義が内縁の夫になっている場合は、内縁の夫の死後、内縁の妻は、内縁の夫名義のその不動産について、共有持分1/2(1/2の根拠は民法250条)があると判示して、共有権を認めました。
しかし、この判決は、前記最決平12.3.10の前に出されたものです。
前記最決は、相続の開始した遺産につき財産分与の法理による遺産清算の道を開くことは、相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもので、法の予定しないところである、と判示しているところですので、共有権の主張が「相続による財産承継の構造の中に異質の契機を持ち込むもの」とされると、その主張も認められないことになるでしょう。今後の、裁判例を見守りたいと思います。
要は、内縁に関係にある配偶者は、他方配偶者が死亡したとき、保護されないことになりますので、「相続ノート」73ページに記載したように、必ず、他方配偶者に遺言書を書いておいてもらうべきです。文面は「私は、内縁の妻である○山□子に、下記財産を遺贈する。」という内容等が考えられます。文例は、「相続ノート」76ページに記載しています。
なお、「相続ノート~愛する家族のために」は、大手書店で、好評発売中だったのですが、多くのお店で品切れになった模様です。現在増刷中で、7月上旬には、また、店頭に並ぶことになります。
予想外の売れ行きに驚いていますが、また、たいへん有り難く思っています。ご支援ありがとうございます。
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